人生は辛いことばかりじゃない!『元風俗嬢が金持ち妻になりました』
更新日:2018/5/21
インターネットが普及してからというもの、社会のカタチは随分と変化した。出版業界も例外ではなく、漫画や小説でデビューする方法としての「投稿」も、そのひとつ。かつては出版社への持ち込みや、各社の主催する「賞」に応募することが一般的だったが、現在はインターネット上にある漫画や小説の投稿サイトへ登録する手段が広く浸透してきている。最近ではそういうサイトから出版社の目に留まり、書籍化するという流れも数多い。そんな中、小説投稿サイト「エブリスタ」で人気のノンフィクション小説がコミカライズという形で書籍化した。それが『元風俗嬢が金持ち妻になりました』(奏羽穂香:原作、やぎかつみ:作画/宝島社)である。
本書は原作・奏羽穂香氏の実体験に基づき、風俗嬢が幸せな結婚生活を掴み取るストーリーが描かれる。奏羽氏によれば「貧乏な祖父母の家で育ち、親からは虐待を受け、地獄の様な生活の中で育ちました」という。そういう辛い状況から風俗の世界に入り、努力を重ねて店のナンバー1まで上り詰める。そんな中で運命の男性と出会い、現在は「穏やかで、幸せな生活」を送っているのだ。もちろん過程にはさまざまなドラマが存在するわけで、そこが本作の見所といえよう。
今回のコミカライズにあたっては、主人公「ほのか」が風俗店で働くところから始まる。最初は大衆風俗店に入店するほのかだったが、そこでの働きぶりが高級店の店長の目に留まり、スカウトされることに。しかし高級店の入店テストに何とか合格したものの、彼女にはなかなか指名が入らない。するとほのかは同僚に「どうやったら指名が取れるか」と教えを乞うのである。こうして「上」を目指して努力する彼女の前に、さらなる試練が待ち受ける──。これはまさに、風俗の世界を舞台にした主人公の「立身出世譚」なのだ。
努力して上を目指すほのかの姿が「スポ根」ものに通ずるところもあり、漫画としては非常にアツい展開だといえる。しかし本作は、単純な「立身出世譚」ではない。原作小説では漫画であまり触れられない「生い立ち」なども描かれており、かなりヘビーな内容。そんな辛い境遇を耐え抜いてきたからこそ、風俗時代に味わった屈辱や苦労も「こんなことは日常茶飯事だった」と我慢できたのである。下を向かずに前を向いて努力したからこそ、ほのかは成功を掴んでいく。原作者の奏羽氏が「もし、今とても苦労されている方がいたら、人生は辛いことばかりじゃないよって伝えたいです」と語るように、この作品は氏と同じような思いをしている人たちに対する「エール」でもあるのだ。
なお、留意しておきたいのが本書はこの一冊で「完結」ではないということ。単行本にナンバーが打たれていないので分かりづらいが、この本は「第1巻」に該当するのだ。本作はWEBサイト「マンガボックス」で連載中であり、現在もほのかの奮闘は続いている。原作小説、コミカライズ共にWEB発というのは、やはり出版界における新しい波というものを感じさせる。紙の出版物は減少傾向にあるが、紙媒体の好きな私としては、WEB媒体とうまく並存していってもらいたいと思う次第だ。
文=木谷誠