「バカヤロー」も愛情表現?! 『日本語は悪態・罵倒語が面白い』

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公開日:2018/5/11

『日本語は悪態・罵倒語が面白い』(長野伸江/光文社)

 コナン君(新一)が、蘭ちゃんに対して使う照れ隠しの「バーロー」にときめいたことはないだろうか? 「バーロー」はつまり「馬鹿」という「悪口」である。それでも、ときめく(私だけではないはず……!)。

 昨今は「美しい日本語」に関する書籍が数多く出ているが、「汚い」日本語だって魅力があるのだ。

『日本語は悪態・罵倒語が面白い』(長野伸江/光文社)は、「馬鹿野郎」や「ブス」「くさい」「泥棒猫」「クソ食らえ」など、「悪口」の用法の変遷を文学や映画などでの使用例を基に紹介し、その「面白さ」を掘り下げた、ちょっと異色な文庫本である。

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「馬鹿野郎」は、江戸時代より使用されていたそうだ。その使い方は文字通り、「間の抜けた愚かな男性」を指す言葉だったが、次第に「怒ったときに相手に投げつける言葉」になっていく。

 また近代(明治時代~)の「馬鹿野郎」は「身分によって自由度が大きく異なる」「上の立場からはほとんど言いたい放題」「家庭内では馬鹿野郎を言っていいのは夫、父親などの成人男子に限られて」いたとか。

 つまり「馬鹿野郎」は、語彙の少ない人でも「俺の方が上」ということを、相手に知らしめる使い勝手のよい言葉だったのだ。その「使いやすさ」からか、一方では気の置けない間柄の男性同士で、「あいさつ代わり」に使われた例もあるとか。

 また、男性が女性に対して「馬鹿野郎」と言うのも、近代になって始まった。周知の通り「野郎」は男性を指す言葉だが、もはや「馬鹿野郎」が一つの単語として定着し、女性にも使われるようになったのだろう。

 第二次世界大戦前から、「馬鹿野郎」は関東地域における夫婦ゲンカの、夫の決まり文句に。さらには、ケンカだけではなく、優しさや愛情も表現できるようになった例が、映画「男はつらいよ」の寅さんのセリフからもうかがえる。

リリー「迎えに来てくれたの?」
寅さん「バカヤロー、散歩に来たのよ」

 昭和50年公開の作品である。

 意中の人のために、駅まで傘を持って来た寅さんだが、照れ隠しで思わず「バカヤロー」と言ってしまう。この寅さんの「バカヤロー」はコナン君の「バーロー」に通ずる「胸キュン」が詰まっている気がする……。

 高度経済成長期から、経済が発展すると共に日本の生活は変わっていき、怒りに任せて口にする「汚い言葉」としての「馬鹿野郎」は減っていったが、昔気質な男性や、家族を愛しながらその愛情を表現できない不器用な男性を象徴する言葉になっていったという。

 真面目に面白く考察された悪口を通して、日本語の奥深さを再発見してみてはいかがだろうか?

文=雨野裾