「だしって何?」食べているのに即答できない人は必読! 科学と文化からうま味を分析

食・料理

公開日:2018/5/13

『だしの神秘』(伏木 亨/朝日新聞出版)

 和食・日本料理に欠かせない、だし(出汁)。毎日のように食べているみそ汁にも欠かせないことは、頭の中でも舌でも理解しているだろう。だが「だしとは何かと聞かれたら、どう答えればいいでしょうか」−−−−この問いに即答できる人は、果たして何人いるだろうか。

 本の冒頭から、いきなりこの問いかけで始まるのが、『だしの神秘』(伏木 亨/朝日新聞出版)だ。素材の味わいを引き立てるだしのおいしさに着目し、科学と食文化の両面から徹底的にアプローチした1冊だ。

■だしの風味を決める「うま味」を構成しているものは――

 ちなみに本書によると、だしがないと、みそ汁や吸い物の味が変わることはもちろん、うどん、そば、炊き込みご飯、おでんにいたるまで、すべてが味気ないものになってしまうという。だしが消えてしまうと、想像以上に日本料理が寂しくなることに改めて気づかされる。

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 そんなだしのおいしさを決めるのが「うま味」だ。甘味、塩味、酸味、苦味に次いで、5番目の味覚として発見されたのが、うま味。このうま味成分は、昆布ならグルタミン酸、鰹節はイノシン酸のように、いくつかの種類に分類される。しかもこれらが溶け出し、さらに2つの異なったうま味を組み合わせることで相乗効果が生まれた時、人間はさらにうま味を強く感じるようになるという。

 だしのうま味が活用されている代表的な料理は、もちろん和食・日本料理だ。本書では、うま味の相乗効果の原因に迫りながら、素材の持ち味をいかしながら、だしの味で料理全体を調和させる日本料理の奥深さを、いろいろな料理人の調理工程から解析。さらには、日本ならではのだしが誕生するまでのルーツや、だしが広く一般家庭に浸透するまでのストーリーもわかりやすく解説している。しかも「関西の昆布好き、関東の鰹好き」といわれるように、関東と関西ではだしの好みも異なるため、インスタントラーメンでさえ東西で味が異なるという現代のトピックについてもクローズアップ。関ヶ原を境に東西で変化するという嗜好や流通との関係など、だしの知られざる一面に驚かされるばかりだ。

■「究極のだし」を自分で引いてみよう!

「そうは言っても、やはり科学的にだしのおいしさが証明されないと」という左脳派タイプの方には、うま味成分を科学的に分析した「3話:だしを科学する」のページがオススメだ。「三つ子の味覚、百まで?」といったテーマのように幼児期の食育とうま味による嗜好形成の重要性や、だしに“やみつき”になっている日本人を科学的に研究した事例まで、さまざまな視点の情報が収められている。また「だしを飲みたい! 試したい!」という体験優先派の方は、科学と技術の技が詰まったうま味が堪能できる「究極のだしの引き方」をチェック。使う道具から、だしを引く手順まで、わかりやすく事細かに書かれているので、料理が苦手な人も安心してだし作りに挑戦できるにちがいない。

「日本の料理、ひいては原風景の要である『黄金色に輝く』だしは、口に含むと、舌も、からだ全体も、心までも満足を覚える奇跡の美味しさです。(中略)まさに『千年の一滴』と呼ぶにふさわしい美味しさと格調を感じます」

という著者。だしビギナーの方々は、本書を読みながら、だしのおいしさをウンチクや雑学として語るのもよし。時には本書を片手にだしを引き、そのうま味をゴクンと堪能するのもいいだろう。

文=富田チヤコ