成果を出せないあなたに足りないものは? ドロ沼や無限ループを抜け出すための「正しい5つの質問」
公開日:2018/5/16
ハーバード大学教育大学院の大学院長のジェイムズ・E・ライアン氏が、卒業式であるスピーチをした。その内容は卒業生のみならず教師や生徒、ビジネスパーソンたちの心をつかみ、この模様を伝える動画の再生回数は1000万回を超えた。一体ライアン氏はそこで何を語ったのか。そのすべてが『Wait, What? (ウェイト、ホワット?)ハーバード発、成功を導く「5つの質問」』(ジェイムズ・E・ライアン:著、新井ひろみ:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)に収められている。
私たちは常日頃「良い答え」や「正解」を出そうと躍起になる。たとえば、仕事で素晴らしい成果を出すには、その方法、あるいは「答え」を導き出さなければならない。新米社員が職場で大きなストレスを抱える理由は、自分がいつどこでどんな「正しい振る舞い」をするべきか、その「答え」が分からないからだ。
だからこそ「答え」を一層必死になって探す私たちだが、ちょっと待ってほしい。「答え」の前には必ず「問い」がある。つまり「正しい答え」が欲しければ、まずは「正しい問い」を持たなければならない。著者はこう語る。
成果が出ないのは、「質問」を間違えているからだ。
本書では、人生で大切な5つの「質問」を読者に説いている。私たちが仕事や人生で素晴らしい「答え」を導き出すための5つの極意のうち、今日はその2つをほんの少しご紹介したい。
■問いその1: Wait, What?(待って、何それ?)
まずは、本書の表題にもなっているこの問い。これは、一歩立ち止まって物事について深く考える機会をつくる、広く応用の利く質問だ。淡々と口にすれば相手の提案が意外だったり、すぐに聞き取れなかったりしたとき、「もう一度詳しくお願いできる?」という意味で使える。一方で力強く言い放てば、相手に対する強い不信感を一言で表明できる。
どちらにも共通しているのは、この質問が流れを「スローダウン」させる効果を持っていることだ。一歩後ろから俯瞰するように、改めて物事を見つめられる。
私たちは往々にして思い込みが多い。上司は部下の報告を聞くとき、「なんだそれは! やり直せ!」と怒る前に、一度この質問をしてみよう。部下の言葉足らずで、重要な報告が抜けているだけかもしれない。あるいは上司の理解が足りなかっただけかもしれない。
夫婦でのやりとり、友達付き合いでもそうだ。結論を出す前に、もう一度相手の言うことをしっかり聞いてみる。私たちがまだ理解していない全体像があるかもしれない。また、質問をすることで相手も考えを深めることができる。
物事を正しく判断するには、それだけの材料が必要になる。それを引き出す方法の1つが「正しい質問」だ。その効果的な「問い」が「Wait, What?(待って、何それ?)」なのだ。
■問いその2: Couldn’t We at Least…?(少なくとも~はできるんじゃないか?)
一見、後ろ向きなこの問い。ところがこの質問こそ、物事を前進させる魔法の質問だという。重要な会議で話し合いが難航し、全員が頭を抱えていたとき、この質問を使ってみるとどうだろう。
「少なくとも、こういったことが見込めると思うのですが、いかがでしょうか?」
たとえゴールが見えていなくとも、状況が定かでなくとも、こう着状態から抜け出して問題解決を推し進める、すべての人を前向きにさせる質問だ。
また、「少なくとも折り合いをつけることができるのでは?」という妥協点を探す問いにもなる。仕事場、家庭、友人など、どんな場面においても建設的な関係でいられるかどうかは、お互いにどれだけ歩み寄れるかにかかっている。今、確実に言えることや分かっていることを明らかにして、そのスタートラインに全員で立って、そこからもう一歩踏み出す方法を探す。そんな勇気をくれる質問だ。
いつも煮え切らない人に対して応用してみよう。あるいは、いつもあと一歩でためらいがちな人は、自分自身にこの魔法の問いを投げかけてみよう。今よりちょっと前に進んだ未来に行けるのではないだろうか?
これらのように、質問を通じて問題解決や目標に向けてまず一歩を踏み出すイメージをうまくお伝えできただろうか。本書では、残り3つの質問を読者に授けている。著者によるウィットやユーモアに富んだ実例を交えながら解説しているので、ビジネス書が苦手だと思っていた人でもサクサク読めるだろう。
「質問」というのは、相手や物事に対して興味関心を寄せたときに生まれる。もっと知りたい、もっと理解したい。それを繰り返すことで「本質」を理解することができる。これは「スタート地点」から「ゴール地点」を目指すことに似ている。私たちは今、スタート地点に立てているだろうか、ゴール方向を目指せているだろうか。仕事も人生も、正しい問いかけを繰り返しながら、ゴールを目指してほしい。
文=いのうえゆきひろ