人を説得するならラップが使える!? ジブラが伝授する韻マジック
公開日:2018/5/14
どうやったらあんな風に韻が踏めるのか。即興でラップをする人たちを見るといつもそう思う。韻の響きは気持ちがいいしおもしろい。言葉遊びとは思いつつも、ずっと聞いてしまう魅力がある。
昨今のラップブーム、そして日本のヒップホップ界をけん引してきたのがZeebraだ。彼はTV番組「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日)をオーガナイズしメインMCを務めている。知らない人には1999年のDragon Ashのシングル「Grateful Days」で「俺は東京生まれHIP HOP育ち 悪そうな奴は大体友達」と歌っていた人といえばだいたいわかるだろう。
そのZeebraがラップスキルの本を出した。本書『ジブラの日本語ラップメソッド』(Zeebra/文響社)だ。ラップなんて関係ないと思った人も、まあ待って。Zeebraいわく「韻を踏むとなにが起きるのか? 不思議な説得力が生まれる!」韻は、なんだか納得させられる魔法のようなもの。これは飲み会や口説きや会社のプレゼンにも応用できるではないか。
なお、最初に単語を整理しておくと、ラップとは歌の手法のひとつで、リズムに乗せて、韻を踏んで、歌う。ヒップホップとは、ラップを含めたカルチャーの名前だが、アイドルがラップをしてもそれはヒップホップではない。また、「韻を踏む」ことは「ライム」ともいう。
では、「韻を踏む」について。「韻」とは、言葉の母音を合わせること。その行為を「韻を踏む」と言う。
例えば、著者名の「ジブラ」を母音だけにすると、「いうあ」となる。同じ母音を持つ単語には「仕草(しぐさ)」や「火蓋(ひぶた)」があり、イントネーションを変えれば「渋谷(しぶや)」や「絆(きずな)」、「実話(じつわ)」もある。「フィルター」のような最後を伸ばす言葉であっても韻が踏める。
最後に助詞を付けることによっても韻は踏め、「このスリルが」の最後3文字「リルが」でも韻を踏める。
5文字から韻は一番おもしろくなってくる。響きが同じなのに、全然違う言葉で韻を踏めるからだ。「すまし顔」と「スガシカオ」。どちらも母音は「うあいあお」だが、言葉を分解すると「すまし顔(すまし・がお)」は名詞/形容動詞で、3文字+2文字の組合せ。「スガシカオ」は人名で5文字。さらに「スタミナ丼」「フタしたよ」も響きは同じだが、それぞれ4文字+1文字、2文字+3文字になっていて、同じ5文字でもバリエーションが違う。おもしろいし、気が利いた感じが出てくる。
ここで紹介したのはほんのさわりの部分で、韻の展開、つなげ方、譜割り、ヴァース(サビじゃない部分の歌)の書き方、ビートののせ方、歌い方、いろんなラッパーのフロー(ラップの節。リズムにのせた歌い回し)の解説までいたれりつくせりだ。
しかし知れば知るほど奥が深い。言えば言うほどまあ危ない。韻は難関。知性の門番。行くか今晩。うかつで稚拙なライムは顔から火が出る。けど声張り上げる。いつか巻き返す。
最後は韻でビシッと終わりたかったが、口八丁な私でも一朝一夕にはできない。けれどヒップホップはやったもん勝ちの文化だそう。まずは本書片手にとにかくやってみるのが上達への早道なのでは。
文=高橋輝実