マンガでマスターする教養としての「経済」 経済学と実体経済はなぜイメージが違う?

ビジネス

公開日:2018/5/18

『エコノミックス マンガで読む経済の歴史』(マイケル・グッドウィン:著、ダン・E・バー:画、脇山美伸:訳/みすず書房)

 みなさんは高校時代の授業で「経済」について学びましたね? そして、おそらく大学の一般教養科目あるいは専門科目でも「ミクロ経済学」や「マクロ経済学」を学んだ方もいるはずです。でも、現実の経済とかけ離れていてどこかよそよそしい学問だなぁと思ったことがあるのではないでしょうか。わたしも大学在学中にミクロ経済学とマクロ経済学を学びましたが、そのときにきちんと理解できていたのかは正直ビミョーなところです。

 しかし、そんなわたしでも「経済を勉強するときのとっかかりにはうってつけの1冊だ!」と思えた本があります。それは『エコノミックス マンガで読む経済の歴史』(マイケル・グッドウィン:著、ダン・E・バー:画、脇山美伸:訳/みすず書房)です。そこで本稿では、この本の「ここがいい!」と実感したところをちょこっとだけご紹介します。

■現実の経済で、いま何が起こっているかがわかる!

 冒頭でも述べたことですが、「経済学」という学問は現実にそぐわずどことなくよそよそしい印象があります。というのも、経済学という学問であつかわれる経済の主体はいつも非常に合理的に行動し、細かな変数は省略されています。しかし、現実の経済では、人や会社は必ずしも合理的に行動するとは限りませんし、ひとつの経済的な現象にはさまざまな変数や条件がからみついています。このギャップが「経済学はよそよそしい」というイメージを生んでいるのです。

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 本書では、(いろいろな変数を加味してわかりやすく経済を説明するのは至難の業ですが)マンガという媒体を使ってできる限り親しみやすく、わかりやすく、近現代の経済が解説されています。いかにも傲慢そうな資本家や不満爆発の労働者などなど、ながめているだけで思わずプッと笑ってしまうような絵とストーリーがみなさんの経済学に対する理解を助けてくれます。だって登場人物はまるで現実の経済主体のように行動するんですから。

■難解な「信用創造プロセス」もマンガでわかる!

 マクロ経済学や金融論を勉強したことのある方には「信用創造(預金創造)」という言葉は耳慣れたものかもしれません。これは要するに、銀行がお金を貸し付け、それがまたどこかの銀行へ預金されると、もともとの預金額の何倍ものお金が生み出されるということを言います。しかし、ふつう経済学でこの概念を説明しようとすると「準備預金制度」とか「ハイパワード・マネー」といった難解な用語を使わなければならず、また、数式もcや dといった文字を交えつつ「無限等比数列」なるものを使わなければならないのです。もはや数学嫌いの方にとってはペンも教科書も投げ出したくなるほどですね…。

 しかし、本書ではこれらの難しい言葉や数式を使うことなく、明快に解説をしてくれています。しかも、ただ単に「信用創造」の説明をしてくれるだけではなく、信用創造が生み出す問題点までも明らかにしてくれるのです。とにかく至れり尽くせりで脱帽してしまいます。

 本書では、経済学であつかわれるキーワードや大切な概念が切り取られてパーツごとに解説されているのではなく、近現代の経済の歴史に沿ってまとめられています。ですから本書は、経済の一連の流れと理論を同時に学ぶこともできる優れものです。本書で、ミクロ経済学とマクロ経済学のすべての知識を網羅することは難しいかもしれませんが、経済学を初めて学ぶ、あるいは記憶のかなたに眠っていた「経済学」を再び呼び起こすための読み物としてはもってこいの1冊です。

文=ムラカミ ハヤト