処女以外は魔女… 登場人物全員が性癖持ちの殺人鬼 !『殺彼』であなたは誰に殺されたい?
更新日:2018/5/21
イケメンたちから思い描いたように求められる、いわゆる逆ハーレムは、自分にはハードルが高い。あるいは、ベタすぎて飽きてしまった…。そんな乙女にオススメしたい作品が、くらげバンチで連載中の『殺彼-サツカレ-』(大介+旭/新潮社)だ。
タイトルにあるように、登場人物はなんと全員殺人鬼! 彼らの主なターゲットとなるのは、確実に仕留めやすい女性。登場する女性は今のところ全員殺されているので、少女マンガのような甘酸っぱい恋愛ではなく、被害者気分を味わえる、斬新な作品だ。
物語の主人公・桐生優太は付き合う女性に手を上げるDV男。あるとき、暴力がエスカレートして彼女を殺してしまい、その現場を、女性を殺しながら強姦する性癖を持った殺人鬼・松本記知に目撃されてしまう。そのことをきっかけに、表向きは料理人で、店を繁盛させている食人鬼の竜崎豪や、“処女以外は魔女”と断じ、殺した女性をエンバーミング加工、さらに非処女だった場合、独自の手法で“浄化”させる記知のルームメイト・和巳景楽といった、クセの強い犯罪者たちと関わりを持つことになる。DV男の優太は、自分が彼女を殺してしまったのは、故意ではない、偶然だったと主張し、殺人鬼たちが眼前でいともたやすく繰り広げる殺人行為に抵抗を示す。女性を殴打する高揚感のなかに、殺人鬼たちと同質のものがあることを認めたくないのだ。一般人と殺人鬼、その中立の立場である彼が、自分の変容をどう受け入れていくのかが見所だ。
同作の魅力は、被害者女性目線で楽しめるだけではない。犯罪者たちには、人を殺すことに対して “美学”があり、その独特な思想を垣間見ることができるのも、特徴のひとつだ。
たとえば、食人鬼・竜崎豪の場合だ。世間では今、鹿肉や猪肉を食すジビエブームが巻き起こっている。家畜ではない動物を殺して食べることを、無益な殺生と捉える人もいるだろう。しかし竜崎は、それは家畜とそのほかの生き物の生命に優劣をつける人間のエゴだと語る。彼は家畜もそれ以外の動物も――人間さえも、命は平等であるという観点に基づいて、食人に及ぶ。標的になる人間も、選んでいるわけではない。山での狩猟と同じで、「その日その場所で出会った獲物に狙いを定める」のだ。竜崎は自分の血肉となる“食材”の命に敬意を払い、感謝を示す。だからこそマナーのなっていない人間は嫌いだし、来店する客に人肉を振る舞うような非常識なこともしない。犠牲者を出している以上、彼の行いは許されるものではない。しかし、視点を変えてみると、思慮深く拘りのある人間が、命を食べることの道理を追求した結果が、食人だったともいえるのではないだろうか。
殺彼の原型は、作者の大介氏、旭氏が創作活動で発行していた『サツジンカレシ』シリーズで、その全貌が明かされていない殺人鬼も複数存在する。イラストの美しさもさることながら、キャラクター同士が交わりを持つほど盛り上がる作品なので、今後の展開から目が離せない。一筋縄ではいかない、麗しい殺人鬼たちの美学を、堪能してみてはいかがだろうか。
文=鞍馬莉奈