年上の男性への恋の形とは?『さよならバイバイ、大好きだったよ。』世紀末インタビュー
公開日:2018/6/4
ツイッターに投稿したマンガが熱い支持を集め、デビュー単行本『殺さない彼と死なない彼女』で爆発的人気を獲得した世紀末さん。3月に発売した第2作『さよならバイバイ、大好きだったよ。』も大きな話題を呼んでいる。主人公は、先生に片想いする女子高生。世紀末さんの思う、年上の男性への恋の形とは。
世紀末
せいきまつ●1995年、広島県生まれ。ツイッター(@se1k1ma2_)で発表するマンガが人気を集め、2017年に『殺さない彼と死なない彼女』、今年3月に『さよならバイバイ、大好きだったよ。』を刊行。フォロワーは現在14万人を超える。公式ブログでは「世紀末絵日記」を連載中。
■かっこよくて、ずるい大人に恋をして 傷つきながらきらめいた、一度きりの日々
世紀末さんがツイッターを開設し、イラストやマンガを投稿するようになったのは、2016年のこと。理由は、「変わりたい」と思ったから。短大を卒業したものの就職試験に失敗。そのまま実家に帰るのが嫌で、形あるものを残そうと投稿を始めたのだ。今年の3月1日、ちょうどツイッター開設2周年の記念日に世紀末さんが世に送り出したのが単行本第2作『さよならバイバイ、大好きだったよ。』だ。
現在のフォロワー数は14万人以上。世紀末さんは「フォロワーさんは全部覚えたい。ありがとうという気持ちで一つひとつコメントを読んでいます」と画面の向こうの読者をとても大切にしている。それゆえに世紀末さんのマンガの作り方は極めて次世代的だ。ツイッター上に投稿した作品と普段のつぶやきが並列に並び、公式ブログにはエッセイ4コマ「世紀末絵日記」も連載されている。それらが違和感なく共存し、フィクションなのかリアルなのか、いい意味で判然とせずフォロワーに届く。世紀末さんとフォロワーが双方向につながり、いつもライブ会場のようだ。
さらに単行本化にあたっては、「ツイッターと違う見せ方ができたら」という思いから、必ず新規エピソードを加え、全ストーリーを再構成している。『さよバイ』では新規部分が半分以上にも上る。フォロワーであってもなくても、単行本を新鮮に楽しめるのだ。
■バッドエンドではなくビターエンド
『さよバイ』の主人公は、先生を好きになってしまった女子高生・葉子。ツイッターに初めに投稿されたのは、実は葉子が先生に別れを告げる卒業式。つまりラストシーンだった。
「ちょうど去年の卒業式のシーズンに、〈あ、これ描きたい〉と思いついて。それからホワイトデーや雨の日の話などいろいろ浮かんで、最終回を目指して作っていった感じです」
先生と生徒という設定を選んだのは……。
「私自身、高校時代に先生のことがすごく好きで、先生が結婚したときめっちゃ悲しかったんです。私の気持ちは憧れで恋ではなかったですけれど、きっと葉子のように本気の恋をしている子もいるだろうなって」
世紀末さんのマンガはつねに共感性が非常に高く、今回多く寄せられた感想も、葉子の想いに寄り添うものだった。
「葉子と同じ境遇で卒業式を迎えました、と言ってくれる方がたくさんいました」
葉子は卒業式で「先生さよなら! バイバーイ!」と言うけれど、そこにあるのは別れの悲しみだけではない。ハッピーエンドではないが、癒しがある。
「私の中のハッピーエンドって、おとぎ話のように花が咲き誇ってパレードで祝福みたいな、すべてが完璧なイメージなんです。それはそれで大好きなんですけど、あくまで画面ごしに見る世界。自分の近くにはない。でも、『さよバイ』はバッドエンドではなくビターエンドだと思っています。別れの先には必ず出会いという未来があって、だから悲しいの一言では表せない。それを身近に感じてもらえたらいいなと思います」
■ずるい男ってドキドキしませんか?
作中では描かれていないが、先生は28歳という設定だそう。葉子の目を通した先生には、大人の男のかっこよさがある。たとえばタバコを吸いながら、「大人はいいぞ 俺のミスは俺のもんだ」と語るシーンは印象的だ。
「かっこいい大人は、〈大人はいいぞ〉って言ってくれないと嫌だなと思ったんです。私の尊敬する人は、“子どもはいいよな”とか愚痴らない。尊敬できる大人像を集めたら、〈大人はいいぞ〉の一言に凝縮されるのかなと」
一方で、葉子の気持ちにおそらく気づいていながら一定の距離を保つ、大人としてのリアルな感覚も心地よさを刺激する。
「先生、ちょっとずるいですよね(笑)。私がずるい男を好きだからかもしれません。ずるい男ってドキドキしませんか? 私の中では先生も一人の人間だし、という思いが強くあります。ちょっと歳が上なだけの生身の人。だから最終的には年の差恋愛というよりは、葉子と先生の関係は純粋な人間同士のものなのかなと思います。純愛というか、好きという気持ちだけでぶつかる。でもやっぱり葉子の中には、年齢差を気にする気持ちもあり続けて、そのもどかしさも誰しも持つ感情ですよね」
葉子と先生だけでなく『さよバイ』にはさまざまな少年少女の恋と友情が群像劇的に描かれている。
「キャラクターを友だちみたいに感じていただけたら嬉しいです。何度読み返しても楽しい本にできたらいいなといつも思っています」
取材・文:松井美緒