「僕らは仕事に満足していなかった」宮崎駿が涙ながらに語った、高畑勲との思い出【ターニャの映画愛でロードSHOW!!】
公開日:2018/5/18
■「高畑勲 お別れの会」に参加して感じたこと
こんにちはー、「金曜ロードSHOW!」プロデューサーのターニャです☆
5月15日(火)、東京にある三鷹の森ジブリ美術館で開かれた高畑勲監督のお別れの会に出席してきました。初夏を通り越し、夏さえ感じさせる陽気の中、スタジオジブリらしい温かな「手作り感」とこだわりが随所に散りばめられたとっても心に残る会でした。
まず、印象的だったのが、会の参列者に配られたしおりでした。『かぐや姫の物語』のかぐや姫が桜の木の下で花を愛でる様子が描かれています。「明るく高畑さんを送り出したい」という願いが込められているようでした。背表紙には『かぐや姫の物語』の主題歌「いのちの記憶」が印刷されていました。その理由はのちほど。
お別れの会は、11時、高畑監督の長年の盟友・宮崎駿監督の開会の辞で静かに幕を開けました。
■宮崎駿監督が語った高畑勲監督との出会い、思い出、その「凄さ」
「1963年、パクさん(高畑監督の愛称)が27歳。僕が22歳のとき、僕らは初めて出会いました。初めて言葉を交わした日のことは、いまでもよく覚えています。黄昏時のバス停で僕は練馬行きのバスを待っていた。雨上がりの水溜りの残る通りを一人の青年が近づいてきた。…(略)…55年前のことなのに、なんてはっきり覚えているのだろう。あの時のパクさんの顔を、今もありありと思い出す」
宮崎監督は高畑監督との出会いのシーンをこう振り返りました。目の前にそのシーンの映像が浮かぶような描写を聞き、やはり高畑監督は宮崎監督にとって特別な存在だったんだな、と感じました。続いて、東映動画に入社し、労働組合での活動で共に過ごした時間のことを振り返り、「あらゆることを語り明かした」とした上で、次のように語りました。
「……僕らは仕事に満足していなかった。もっと、遠くへ……もっと深く……もっと誇りを持てる仕事がしたかった」
こう語った宮崎さんはこの日初めて涙をぬぐいました。若き日に交わした熱い想いのぶつかり合いを思い出し、万感が胸に迫ったように見えました。会場(*私はメイン会場ではなく特設テントにて参列)では、宮崎監督の言葉に多くの参列者が感じ入り、涙を流す姿が見られました。かくいう私もその一人で、爽やかな陽気に包まれた初夏の会場で、監督への感謝の思いを込めて明るく送りたいなと考えていた私の想定はもろくも、あっという間に崩れ去ります。
さらに、ともに制作した『太陽の王子 ホルスの大冒険』の初号試写を見たときの衝撃を次のように述懐しました。
「初号(試写)を見終えたとき、僕は動けなかった。感動ではなく、驚愕に叩きのめされていた……(略)……何という圧倒的な表現だったろう。何という強い画。何という優しさだったろう。パクさんはこれを表現したかったんだと初めてわかった……」
こみ上げる感情を堪え、宮崎監督は声を絞り出しているようでした。最大限の評価といってもいい表現で、その時高畑監督の作品から受けた驚愕の気持ちをこう振り返り、いかに高畑監督が「凄い存在」と感じたのか、宮崎駿監督は自身の体験から雄弁に語ったのです。
■「いのちの記憶」、そして『かぐや姫の物語』
お別れの会の終盤、式の進行役から発せられた言葉に、私は思わず一人唸っていました。なるほど……と。「いのちの記憶」を二階堂和美さんが生で独唱する、というのです。これは、『かぐや姫の物語』のテーマ曲で、作詞作曲は二階堂さんですが、高畑監督の想いが込められているかのような歌詞の内容と世界観を体現した曲です。そう、しおりの背表紙に歌詞が記されていたのはこういう理由があってのことだったのです。
会場が固唾をのんで見守る中、二階堂さんは力強く歌いだしました。
♪あなたに触れた よろこびが
深く 深く このからだの端々に
しみ込んでゆく……
それは、高畑監督への感謝の想いを文字通りすべて注ぎ込んだような熱唱でした。間奏中、二階堂さんは涙をこらえることができない様子でした。でも、また歌いだすタイミングでは気持ちを整え、極めて力強い歌声を響かせたのです。会場はすすり泣く声があちこちで聞かれました。高畑さんへの尊敬と失ってしまった喪失感にあらためて包み込まれたようでした。私も感情を抑えることができませんでした。
■今こそ、『かぐや姫の物語』をみなさんとともに
今週の金曜ロードSHOW!では、高畑勲監督の集大成にして遺作となった『かぐや姫の物語』を完全ノーカットで独占放送します。今週火曜日、三鷹の森に参集できなかった圧倒的大多数の皆様とともに、一緒にテレビの前でこの傑作を観られれば、という思いです。そして、監督を送り出せれば、と考えています。みなさんの想いを、感想を、高畑監督へ送りたいメッセージを、どうか、発信してください。金曜ロードSHOW!の公式SNSなどに送っていただいても、嬉しく思います。
みんなの想いを「可視化」できれば、素晴らしいと思うのです。どこかで高畑監督は見ていてくれる、想いは届くと信じているからです。
それではみなさま、心に残る忘れられない映画体験を☆
■番組情報
高畑勲監督遺作『かぐや姫の物語』
5月18日(金)よる9時 ノーカット独占放送
https://kinro.jointv.jp/
文=citrus 日テレ『金曜ロードSHOW!』プロデューサー ターニャ