“妊活に理解のない夫への対処法”“焦りと不安への向き合い方”…妊活をラクにする1冊

出産・子育て

公開日:2018/5/19

『大人の授かりBOOK〜焦りをひと呼吸に変える がんばりすぎないコツ〜』(加藤貴子/ワニブックス)

 妊活は経験した人ではないとわからないつらさがあります。何もしなくとも、当たり前のように子どもが授かる人もいれば、治療をしなければ授からない人もいます。不妊治療は、確立されているものの、妊娠に必ずしも反映されない「神の領域」の采配が大きい分野だからです。そして妊娠のチャンスは月に1回のみ。焦る気持ちとは裏腹に、妊活にはとても時間がかかります。

 女優の加藤貴子さんもそう思っていたひとり。周囲の期待と裏腹に、妊活しても授からないため、他人の子どもを見るのもつらかったときもあったそうです。でもこの「モヤモヤ」を手放せたら、ストレスが減って不妊治療も前向きに取り組むことができ、そしてついに2人の男の子に恵まれたのだとか。

 この貴重な経験を1冊の本にまとめたのが、『大人の授かりBOOK〜焦りをひと呼吸に変える がんばりすぎないコツ〜』(加藤貴子/ワニブックス)です。

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 42歳という、高齢で妊活を始めた加藤さん。44歳と46歳で出産するまで、紆余曲折、七転八倒の日々だったそう。その体験を経て、妊活の「何がつらく苦しいのか」、治療中の胸中や加藤さんなりの対処法を分かりやすく記しています。妊活に理解のない夫への対処法、なかなか妊娠できなくて、いらだったときどうすればいいのか。多くの人が妊活で感じる、行き場のない気持ちの立て直し方のヒントとなるはずです。

■妊活女性は自分を責め傷ついている

 妊活の苦しさにはいろいろありますが、まず加藤さんがぶち当たったのが、「卵子の老化」という壁。

生理があって体力があれば、いずれ授かると思っていた

 加藤さんは、自分の無知さになげきます。今でこそ「卵子の老化」が知られるようになりました。でも知らなかった人には、この事実が自分を責める材料となります。「私はなんでもっと早く子づくりをしなかったのか」と。

 でも女性が働くことが当たり前の現代、20代30代はキャリア形成に忙しく、家族計画にまで頭が回らなかった人も多いのではないでしょうか。

 加藤さんも同様です。女優の仕事で食べていけるようになったのは、20代後半。そしてドラマ「温泉へ行こう」で待望の主演に抜擢されたのは、28歳のとき。30歳を迎えて仕事はますます忙しくなってきます。

 仕事が忙しいのは男女一緒です。でもアラフォーで子どもを欲しいと声に出すことを、ためらう女性は多いです。なぜなら「なんでもっと早くつくらなかったの?」と女性ばかりが非難されがちな風潮だからです。特に年を重ねている人ほど、自分を責め、気持ちは追い込まれているのです。

■夫婦の溝を縮めた魔法の言葉

 続いてぶつかるのは「夫婦の温度差」という壁です。多くの男性は、子どもが生まれれば「かわいくて仕方がない」とメロメロになります。でも生まれてくるその日まで、子どものいる生活をあまり想像できません。だからあまり協力的ではない場合も。

 子どもが欲しい気持ちの温度差が際立つと、「妊活クライシス」に陥ります。加藤さん夫婦も同様でした。妊活クライシスは、ささいなことで勃発します。加藤さん夫婦は、治療の一環として、生活習慣の改善を指導されたそうです。なぜなら母体の高齢に加えて「男性不妊」が妊娠のネックだったから。

 お酒を控えたりウォーキングをしたり、そして定期的に夫婦生活を持つことを医師から言い渡されます。でもそれをご主人がめんどくさがったことが切っ掛けで、大げんかへ発展。

 ただでさえ妊活は通院に忙しいのに、家庭でもギスギス。何度も陥った窮地を救ったのがご主人の言葉。

うちは「妊娠20ヶ月」だと思えばいい。

 妊活している期間も、泣いたり悲しんだりしている時間も「命を育む時間」と発想の転換を促したそうです。この言葉を聞いた加藤さんは、少しずつ前向きな気持ちで治療に向き合えるようになったとつづっています。

■流産は「なかった」ことにできない

 また妊活は、「妊娠」がゴールではありません。残念ながら流産することが少なからずあります。でも妊娠すれば出産できるものだと思い込みがちです。その理由のひとつとして、流産経験者からあまり流産の経験が語られないことがあげられるでしょう。

 この本では、加藤さんが実に3回も流産されたことも語られています。そして聞き慣れない「不育症」という病気についても書かれています。妊娠しても流産をくり返す人は「不育症」の可能性が高く、検査をすることを勧めています。検査は血液検査ですが、一般的な不妊クリニックで検査しない項目が含まれているそうです。

 加藤さんの不育症検査や分娩に携わった医師が次のように語っています。

流産や死産を「人に言えない」「隠したい」と思う人も多く、家族も「なかったことにしよう」って亡くなった赤ちゃんの存在が否定される傾向にあります

 母親には、おなかの中にいた記憶があり、それを「なかった」ことにはできないのです。一方、男性には命が宿った実感がなく「また次をがんばろう」、そんな言葉をかけてしまうかもしれません。悲しみにくれる妻に夫はどう対応すればいいのでしょうか。そのつらく苦しい経験も赤裸々に語られています。

 不妊治療法や体質改善法など、一般的な不妊のお悩みに応える情報も、この著書では紹介されています。しかし読みどころは、加藤さんが経験を通して、妊活を少しでも「ラクなもの」へと転換するアイデアの数々でしょう。

 不妊についての知識を深めると同時に、妊活中の女性の気持ちを見事に代弁しています。不妊治療の苦しさと、どう付き合うのか。妊活に振り回されず夫婦の絆を深めたいと思っているなら、手に取って欲しい1冊です。

文=武藤徉子