アベノミクスはサラリーマンの生活をどう変える? 経済ニュースの基礎がわかる入門書
公開日:2018/5/21
多くを知らなくても生きていくことはできる。しかし、知らないことで損をすることは意外と多いもの。「経済学」はまさにそのひとつだろう。
「経済学」には、我々にとって身近な存在の「財」「労働」「資本」という3つの市場を対象にした“ミクロ経済学”と、経済成長や国際収支など、個人単位よりもっと広い範囲をカバーする“マクロ経済学”の2つが存在する。
今回はその“マクロ経済学”に焦点を当てた『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 マクロ編』(ティモシー・テイラー:著、池上 彰:監訳、高橋璃子:訳/かんき出版)を紹介したい。こちらは以前紹介した“ミクロ経済学”(レビュー記事は【こちら】)に続く、いわば下巻のような立ち位置で、著者もミクロ経済、マクロ経済の順に読むことを推奨している。
まず、本書の初めに述べられているのが、マクロ経済政策の目標について。
(1)経済成長
(2)失業率の低下
(3)インフレ率の低下
(4)持続可能な国際収支
つまり、以上の4つを実現するための研究がマクロ経済学ということだ。そして、目標を達成するための手段には「財政政策」と「金融政策」がある。経済学をかじったことがあるという人は、この2つが異なるものであるとご存じだろう。しかし、経済を特に学んでこなかった方は「え、どちらも同じじゃないの?」と慌ててしまうかもしれない。
簡単に説明すると「財政政策」とは国家予算や財政赤字など、国の収支に関する政策で、一方「金融政策」は日本銀行(中央銀行)が金利や貨幣の流通量を調整する政策を行うことを指している。この2つの施策を上手に組み合わせることで、前述した4つの目標を達成しようとしているのだ。
例えば、インフレ率の低下について手短に説明したい。インフレ(インフレーション)とは世の中全体のお金の量が増え、物価が上昇すること。逆に、デフレ(デフレーション)はお金の量が少なくなり、物価が下がることだ。これまで日本が長期のデフレに苦しんできたということは、近年のニュースや新聞などの報道でご存じかもしれない。
物価が下がることで、商品が安く買える分、企業の収益が減少して従業員の給与がカットされる。あるいはリストラの必要が生じてしまうのがデフレだ。では、その逆のインフレならば問題がないのかというと、そう簡単な話ではない。インフレが進めば、貨幣の価値は下がってしまい、モノの値段が高騰するので、家計を圧迫してしまうだろう。
インフレ・デフレが行き過ぎないように調整するのが政府と日本銀行の役目となる。デフレであれば政府は減税を、日本銀行はお金の量を増やす政策を行い、インフレなら逆に増税、お金の量を減らす政策が必要だ。
ここ最近の日本はデフレ脱却のため、「アベノミクス」という名でインフレ政策が行われてきた。しかし、同時に消費税の増税が行われている状況だ。つまり、デフレ対策をしながら、インフレ対策の増税をしている形に、もっと多くの人が疑問を持ってもおかしくない状態だと言える。
もちろん、教科書通りに現実は進まない。だが、経済学の知識がなければ「それはおかしいのでは?」と考えることすらできないだろう。おかしいと感じれば、政府の説明にもっと耳を傾け、納得のいく回答を求めるはずだ。
マクロ経済を理解することは、社会の仕組みを理解することにつながる。インフレ以外にも、国際収支・景気対策・為替相場など、経済の動きについて丁寧に説明されている。知らなくとも生活を失うことはないだろうが、正しい判断をするために、知っておくべき知識ではないだろうか。
文=冴島友貴