“安定した高収入”が望めなくなる銀行には、何が残るのか?
公開日:2018/5/29
2017年11月、日本を代表する3メガバンクグループが打ち出した人員削減案の衝撃は記憶に新しい。マイナス金利やフィンテックによる市場環境の悪化から、各グループで今後数千~数万人の人員が削減される。「もはや安定の時代は終わった」とよく言われるが、具体的にはどのような変化が起こるのだろうか。安定的な高収入が望めなくなるとすれば、今どんな人が銀行に入るべきなのか。本書『銀行員はどう生きるか(講談社現代新書)』(浪川攻/講談社)は、人員削減発表の内幕から、日本ではあまり知られていない米銀の最新事情までを踏まえた上で、今後の銀行、そして銀行員のあり方を予見している。
■銀行員の「セカンド・キャリア」システムは崩壊する
メガバンクが行う人員削減は、「解雇通告をしてクビ」という典型的なリストラではなく、いわゆる「自然減」によるものだ。毎年1000人以上の採用をしてきたメガバンクは、新卒採用の人数を退職者数よりも大幅に少なくすることで、数年で大規模な人員削減を達成しようとしている。その際、問題になるのが退職者数。多くの銀行員は、役員に昇格する者以外は、50歳前後で銀行を去り、関連会社や取引先に再就職をする。年収は下がるものの、銀行からの退職金で住宅ローンを払うこともでき、悪い話ではなかった。
しかし、著者は、今後大量採用世代が転出するにあたって、この「セカンド・キャリア」システムを維持することが難しくなってくるという。なぜなら、関連会社には既に相当数のOBが転籍しており、取引先でも銀行員のニーズが減っているからだ。今の時代、景気の良い企業であれば、内部に元銀行員を抱え込まなくとも、ノルマに追われる複数の銀行から条件の良い提案が舞い込んでくる。こんな状況で、「セカンド・キャリア」を銀行に任せるのは危険だ――そう考える若手行員たちが、続々と転職サイトに登録している。
■米国では支店長の年収は600~700万 日本はどうなる?
米国では、リーマン・ショックの後、金融業界が顧客からの信用を取り戻すために、フィンテックによってサービスの質を向上させてきた経緯がある。そのため、日本よりもフィンテックの導入が進んでおり、店舗改革や働き方において、日本の銀行の未来を映し出している。その米銀では今、何が起きているのか。本書では、数人しかいない店舗内の様子や、そこでの行員の働き振りなどが詳細にレポートされている。中でも衝撃だったのが、米銀の支店長の年収だ。米銀では本部と支店(営業店)の給与格差が激しく、支店の一般行員が300~400万円、邦銀の支店長に相当するブランチマネジャーでも600~700万なのだという。これは、本部で働く大卒採用の2年目のエリートとほぼ同水準なのだとか。米銀では、本部で企業買収のアドバイザリーなどをしている行員が破格の給料をもらっている一方で、支店の一般行員は、業後にコンビニなどで働いている人も少なくないという。日本の銀行にこれがそのまま当てはまるとは考えにくいが、能力による給料の二極化は避けられないだろう。
支店長を筆頭に、銀行員の働きは激変していく。確かに「安定した高収入」ではなくなるかもしれないが、代わりに個人の能力で勝負する「やりがい」は生まれてくるのではないか――。本書の最終章には、著者が思い描く新しい銀行員の姿が記されている。それは、案外悪いものではないように思えた。
文=中川 凌