風邪は治すのではなく、経過させる。整体のパイオニアが教える病気との付き合い方
公開日:2018/5/30
無病息災という言葉があるように、誰でも日々の生活を健康な状態で過ごしたいもの。しかし現実には、風邪のように軽いものからガンや心臓病などの重いものまで、病気は常に我々の生活の周りにある。そんな病気とどう向き合うべきなのかを教えてくれるのが『風邪の効用(ちくま文庫)』(野口晴哉/筑摩書房)だ。
著者の野口晴哉氏は、12歳で関東大震災に罹災。本能的に手をかざして治療をしたことを契機に治療家を目指した人物。多種多様な手技療術のなかから共通点を見つけ出し、その標準型として「整体操法」をまとめ上げた。1947年(昭和22年)には、その指導者育成のために「整体操法協会」を設立し、療術界で中心的な役割を果たしている。その後、病気を治すことよりも、人間本来の力を引き出して健康に導く活動、「体育」に軸を移し、「社団法人整体協会」を設立。活元運動の普及、愉気法など、さまざまな整体法の講習会を全国各地で行った。
根源的な考え方は、病気と闘う(闘病)のではなく、重篤な病気にかからないよう、普段から身体を整えていくこと。本書は、その第一歩を、身近な病気である風邪との付き合い方をとおして教えてくれる1冊だ。
■風邪をなかなかひかない。イコール、健康ではない!
本書の大きな特徴は、「風邪を自然の健康法」であると考えること。そのため「風邪は治すべきものではなく、経過すべきもの」と位置づけている。
野口氏の考えによれば、健康な身体には弾力性があるのだという。しかし、普段から使いすぎている箇所には疲労が溜まり、筋肉から弾力性が失われていく。そして、身体の一部の弾力性が失われると、風邪をひいてしまうのだという。身体の一部というのは、さまざま。頭を使いすぎて、頭が疲れても風邪をひくし、消化器系でも肝臓や腎臓でも同様だ。
ポイントになるのは、「風邪をひくと、身体の疲れている箇所の弾力性が徐々に恢復してきて、風邪を経過したあとは、弾力のあるピッチリした体になる」ということだ。風邪をひいてしまったとき、我々はどうしても「風邪を治さなければ」と考えてしまうが、洋の東西を問わず風邪を治療する行為は、普段から疲れが溜まっている体の弱い部分をそのまま残してしまうため、また風邪をひいてしまう悪循環につながってしまうのだという。
本書の冒頭で著者はこう記している。
──風邪は誰も引くし、またいつもある。夏でも、冬でも、秋でも、どこかで誰かが引いている。他の病気のように季節があったり稀にしかないのと違って年中ある。しかし稀に風邪を引かない人もいる。本当に丈夫でその生活が体に適っているか、そうでなければ適応感受性が鈍っているかであって、後者の場合、癌とか脳溢血とか、また心臓障害等になる傾向の人に多い。無病だと威張っていたらポックリ重い病気にやられてしまったという人が風邪に鈍い──
普段、なかなか風邪をひかない。イコール、健康なのではなく、風邪をはじめとする病気に対する感受性が低いというのは驚きの発想ではないだろうか。そして著者の言葉は、風邪を治療することについて続いていく。
──風邪の治療に工夫し過ぎた人は、風邪を経過しても体重配分比の乱れは正されず、いよいよひどい偏りを示すこともある。風邪の後、体の重い人達がそれで、他の人は蛇が皮をぬいだようにサッパリし、新鮮な顔つきになる。風邪は万病のもとという言葉に脅かされて自然に経過することを忘れ、治さねば治らぬもののように思い込んで、風邪を引くような体の偏りを正すのだということを無視してしまうことはよくない。体を正し、生活を改め、経過を待つべきである。このようにすれば、風邪が体の掃除になり、安全弁としてのはたらきを持っていることが判るだろう──
風邪をひいてしまったとき、どうやって風邪を経過させればよいのか? 本書では、その答えがていねいに解説されている。風邪をひとつのきっかけとして、体が本来持っている力を引き出し、健康な毎日を過ごすために役立ててもらいたい。本書と同様に野口氏が手がけた『整体入門』(ちくま文庫)と併せて読むことで、その理解度は一層増すだろう。
文=井上淳