どこから先がレッドカード? 知っておくべきパワハラのラインと私たちの防御策
公開日:2018/5/31
上司が、自分や同僚に発したひと言に、「ひどいなあ、そこまで言わなくても」と思った経験は、多くの社会人にあるだろう。今思い返しても、「あれって、やっぱりパワハラだったんじゃ…」と疑問に思うことはないだろうか。
実際にどこからがパワハラになるのか? 社会的に許されないラインがどこにあるかを把握するために最適な1冊が、本書『それ、パワハラです 何がアウトで、何がセーフか』(笹山尚人/光文社)だ。
著者は数多くの労働問題に携わってきた弁護士だが、本書内に難しい法律用語は少なめ。実際のケースをもとにパワハラの実態や法律がとりまく状況、また適切な対抗手段について具体的に解説している。
徹底して労働者側に寄り添う視点で書かれているので、著者が労働審判の場で会社側の主張の矛盾を突いていく場面などは、まるで法廷もののドラマで犯人をやりこめていくときのようであり、一種痛快でもある。
■あなた自身をパワハラから守るために
本書によれば、パワーハラスメント(パワハラ)とは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義される。
法律上、どこからがパワハラと明示されているわけではないが、裁判になった場合、その行為が労働者の「人格権」を侵害しているか、また「安全配慮義務」に違反しているかといった部分で、過去の判例も踏まえ判断されるという。
本書には、パワハラのさまざまな実例が登場する。上司に頻繁に呼び出されて何時間も「おまえは頭がおかしい」などと暴言を浴びせられ続ける過酷な例、名ばかり管理職として残業代も払わぬまま長時間労働を強制する会社、嫌がらせのように無関係な業務を命じて退職へと誘導する悲痛な体験…。
こういった職場は、残念ながらまだ日本中に多くあるのだろう。また、会社全体として問題がなくとも、異動してきた上司がとんでもないパワハラ上司だった…という状況は誰にでも起こり得る。
では、いざ自分がそのような状況に置かれたら、身を守るためどうしたらよいのだろうか? 著者は「証拠を確保するための、メモやICレコーダーなどによる記録」を推奨している。そして、しかるべき機関に相談し、問題を公然化することだという。
■私たちには労働環境の「当たり前」をアップデートする責任がある
本書で紹介される事例は、「忙しい中よくもそんな陰湿なことをする暇があるのか!」と加害者側に言いたくなるほど、驚きと憤りを覚えるケースばかりだ。一方で、最近の風潮に関して、「この程度の発言でもパワハラに当たるのか、なんだかやりづらい時代になったなあ」と感じることがあるだろう。
だが、これまで当たり前だったからといって、これからも当たり前で良いということはない。人はこれまでも、身分や男女の差別といったものを、制度の改正や新しい慣習を通じて乗り越えてきたのだから(もちろん完全に克服したわけではないが)。
労働問題についても同様に考えることができるだろう。先人たちの努力の結果、少しずつながらも労働者の権利が勝ち取られ、現在の私たちの労働環境につながってきたのだ。まだまだ十分ではないだろうが、100年前と比べればその差は歴然だ。現代の私たちも、将来の世界で働く人々のために、少しずつでも変わるべきだと思うのだ。
文=齋藤詠月