三浦しをんの新たなる最高傑作『ののはな通信』! 運命の恋に導かれ大人になる少女たちの甘美で残酷な関係を描く
公開日:2018/6/2
女同士の友情は、恋に似ている。彼女の“いちばん”が自分であってほしいと願い、ほかの誰かと親しくしているのを見るだけで嫉妬する。いずれ恋人ができても、物理的に距離が離れたとしても、お互いにとって最大の理解者であるというふしぎな信頼感と絆がある。そんな濃密な友情を育んだことのある女性はあんがい、少なくないんじゃないだろうか。出会いが思春期であるなら、なおさら。その結びつきは恋を超えた絆となりうる。三浦しをんさんの新作『ののはな通信』(KADOKAWA)は、ミッション系の女子校で出会ったふたりの少女が、情熱的な恋から不変の愛へと関係を深めていく大河ロマンである。
物語は、のの(野々原茜)とはな(牧田はな)の往復書簡で展開する。舞台は昭和59年。授業中にまわす手紙や、ときどき投函される手紙やはがきだ。お嬢様だらけの学校で庶民家庭の育ちにコンプレックスを抱きながら、頭脳と毒舌を武器とするクールなのの。外交官の親をもつ帰国子女で、勉強はきらいだが甘え上手の天真爛漫なはな。欠けているところを補い合うように、ふたりは強烈に惹かれあう。はじめて出会った“親友”の存在に2人の心は喜びに満ちて、文字を積み重ねるほどに距離は深まっていく。
ふたりのやりとりを読むだけで、懐かしく甘酸っぱい気持ちがこみあげる。授業中に先生の目を盗んで書いた手紙。返事がくるまえにたまらず書き募ってしまった追伸。友達の変化を敏感に感じ取り、怒らせたのでは、嫌われたのではと焦る心。まだ社会を知らず、己の正義を貫いていけると信じていた純真さ。喜怒哀楽のすべてを共有できる友達が存在することの多幸感。熱情を通じて、いつしか関係は恋に変わる。精神的にも肉体的にも結ばれたふたりは幸福の絶頂を迎えるのだが……。
なにごとにも永遠は存在しない。燃えあがった恋はそれゆえにたった一度の過ちで終わりを迎えてしまう。最初から同性への恋に自覚的だったののと違い、はなは大学生になると異性の恋人をつくり、やがては家庭をもつようになる。今度こそ断ち切れたとおもった2人をつなぐ糸は、けれど数十年後にふたたび蘇る。
“腐れ縁”を、“運命”と表現した人がいた。それがよいものか悪いものかはさておいて、切っても切れない関係があるとしたらそれは確かに運命なのだろう。ともに人生を歩むパートナーではないとしても。二度と触れ合うことがないとしても。
〈愛の物語は、まわりにも伝播していきます。なにかを清めていきます。それがなければ私たちは生きられない。希望を抱けない。〉
はなのこの言葉はこの物語の真髄だ。自分を愛してくれるあの人が、自分が誰より愛するあの人が、この世界に存在してくれる。それだけで人は強くなれるのだろう。そしてその強さが、誰かを救う光となる。運命に導かれ、己の道を切り開いていったふたり。その生き様は、読者をもまた救ってくれるはずだ。
文=立花もも