我シェアする、ゆえに我あり。新しい情報との出会いは「ググる」から「#タグる」へ
公開日:2018/6/3
インスタグラムなどのSNSで、タグ機能を使ったことはおありだろうか。「#(ハッシュマーク)」の後にキーワードを繋げると、それがそのまま関連リンクとなる機能だ。例えば鎌倉を観光した際の写真に「#鎌倉」と付けてアップすると、そこから他ユーザーの鎌倉の写真に飛べるし、同様に他のユーザーも自分の投稿した鎌倉の風景にたどり着き、場合によっては「いいね」や「お気に入り」が押してもらえる。
またタグ機能は上のような直接的なものだけではない。「#夏」と入力して検索すると、いかにも「夏っぽい」写真がたくさん出てくる。タグ機能では、季節感や気分といった観念的な部分をも容易に他人と「シェア」することが可能なのだ。
「インスタ映え」という言葉は時に否定的に受け取られることもあるようだが、現在この消費者の動向を意識したさまざまなビジネスが成功を収めていることも事実だ。現代では、誰もがシェアしたくなるような瞬間を探しながら生きていると言ってもいいのかもしれない。
本稿でご紹介する書籍は『シェアしたがる心理~SNSの情報環境を読み解く7つの視点~』(天野彬/宣伝会議)という1冊だ。宣伝会議の人気講義「インスタグラムマーケティング基礎講座」を書籍化した本書。シェアがトレンドを生み出すSNS時代のいまとこれからを、若手メディアリサーチャーの著者が分析する。
■「シェアしたい」という心理をいかにビジネスにつなげるか
情報量が膨大な現代において、SNSのユーザーをどうやって販売元やブランドのコミュニケーション戦略に役立てていくべきか? その難題を根本から考察し、企業の成功例などを紹介するのが本書の特徴だ。
本書は大きな文脈として「SNSの情報環境を読み解く7つの視点」を解説しながら進むかたちで構成されている。7つの視点とは、以下の通りだ。
(1)SNSのビジュアルコミュニケーションシフト
(2)体験のシェアとSNS映えの重視
(3)なぜいま「消える」動画が求められるのか
(4)動画フィルターに至る日本の「盛り」文化をひもとく
(5)ライブ動画のSNSシフトに注目
(6)「ググる」から「タグる」へと拡張する情報行為
(7)シェアしたがる心理とそれが生み出す「シミュラークル」
もちろんこの言葉だけでは具体策をイメージしづらいかもしれないが、企業のSNS活用担当者のような人にはもちろん、個人としてSNSを楽しみ、活用しているすべての人にとって興味深い情報が詰まっているので、ぜひ本書で確認してほしい。
■我シェアする、ゆえに我あり。その意味は?
心理学者のシェリー・タークルは、「現代人はシェアすることによって自分がかたちづくられる」と主張している。ここでは、主体(例えばあなた)を確定する条件は、当人が何を考えているかということではなく、「何をシェアしているか」によって形成され、判断されるのだという。これはつまり、ユーザーは「どんな投稿(シェア)を蓄積してきたのか」によってその人らしさを獲得し、再帰的に自分のあり方を認識するようになったということを意味する。
「家に帰るまでが遠足です」という文句にならって表せば、現代の若者の活動は「SNSでシェアするまでがイベントです」になると本書は指摘する。実際に体験したことをオンライン上でシェアし、そこに他人からの「いいね」がつけばさらにその体験の価値は高まるのだ。
本書はネット社会に生きる現代人の心理を解析し、それをどうやってビジネスに役立てていくのかという部分についても丁寧に解説されている。SNS上に転がっているかもしれないビジネスチャンスを活かしたいならば、「ユーザー」としてのあなた自身の心理をしっかりと理解することも必要となるだろう。一般消費者としての視点に立って、SNSユーザーとして自分の心理を理解しておくことは、これからの時代で一層重要なことであると感じる。
文=K(稲)