撥水(はっすい)スプレーはなぜ水をはじくのか? 便利グッズのすごい技術
公開日:2018/6/7
我々が日頃使っている「便利グッズ」には、それぞれに「便利な理由」がある。だが、その“なるほど”のメカニズムを我々は意識せずにいる。この春刊行された『雑学科学読本 身のまわりのすごい技術大百科』(KADOKAWA)は、人々の生活に広く浸透している、あるいは普及しつつある「モノ・しくみ」について、それに関する“すごい技術”を図解で紹介する一冊だ。
今回の記事では、これからの梅雨(つゆ)どきには特に活躍することになる「撥水(はっすい)スプレー」について、そもそもこの「撥水」というしくみはどのようなものなのか、いくつかの図版を交えながらわかりやすく説明しよう。
■「水をはじく」しくみ
古くなった傘は、雨の水滴がなかなか落ちない。しかし、撥水スプレーをひと吹きしておくと、まるで新品のように水をはじくようになる。だから、例えばスキー場に行ったときにスキーウエアにかけておけば、雪の上で転んでも濡れることはない。
スプレーの主成分となる「撥水剤」にはさまざまな種類があるが、服や傘などに吹きかける撥水剤の多くはフッ素樹脂を成分に持つ。このフッ素樹脂はきわめて安定した性質で、他の物質と作用しない。このことは、フライパンの表面加工に用いられていることからもよくわかる。
他と作用しないというこの性質は、水に対しても当てはまる。したがって、フッ素樹脂の微粒子をモノに吹きかけておけば、水はなじむことなく弾かれる。これが、撥水のしくみである。
クルマのガラスに吹きかける撥水剤の多くはシリコーン樹脂を主成分とする。シリコーン樹脂はケイ素を骨格にした樹脂。ケイ素は炭素と親戚であり、炭素からできた油脂が水と分離するように、シリコーン樹脂にも水を遠ざける性質がある。この疎水性を利用して撥水効果を出すのだ。
ガラスにシリコーン樹脂の撥水剤を利用するのは、ともにケイ素が主成分のために相性がいいから。ワイパーでこすっても落ちにくいのだ。
ここで、ガラスに吹きかけたシリコーン樹脂の撥水のしくみをミクロに見てみよう。撥水剤をスプレーすると、ガラスと相性のいいシリコーン樹脂の分子はきれいに表面を覆い、水分子が入り込みにくくなる。さらに、ガラスと相性のいいシリコーン樹脂の分子はガラスからはがれにくい。これが、分子の世界で見た撥水性の秘密だ。
ちなみに、ケイ素は「シリコン(silicon)」という。これは、その有機化合物である「シリコーン(silicone)」とは異なるものだが、マスコミなどでは後者も「シリコン」と書き表すことがあるようだ。
『雑学科学読本 身のまわりのすごい技術大百科』
涌井良幸・涌井貞美/KADOKAWA
コドモもオトナもタメになる「モノのしくみ」の話――身近にある「便利なモノ」には、それぞれに「便利さの理由」があるが、我々自身、それをよく知らぬままに日々生活している。本書は、家電からハイテク機器、文房具まで、日ごろよく目にしているモノを下支えする“すごい技術”を、イラスト図版とともに解説する一冊!