ツラかわいい「引きつり顔」が大反響!? 原作者が語る『ニー子はつらいよ』の誕生秘話
更新日:2018/6/13
TwitterなどSNSで話題を呼び、2017年8月からはコミックキューンで連載が始まった『ニー子はつらいよ』。大学までは順調満帆な人生。でも、就職活動の面接で受けたトラウマのせいで社会に出られなくなった無職の23歳、新戸眠子(にいと・ねむこ)。通称“ニー子”を中心に、家族や学生時代の友人などとのやり取りを描いている。
作品の魅力は何と言ってもニー子のニート生活。「私も働かなくちゃ」と分かっていながら、いつも通勤している会社員を見て「心から私じゃなくてよかった」と思っちゃう……。そんなニー子のダメかわいい様子がコミカルに描かれている一方、なかなか前に進むことができずに悩む彼女の姿はリアリティ満点。読者からも「かわいいけどツラい」「幸せになってほしい」などと共感を呼んでいる。
本記事では作者のアルデヒドさん(@alde_hyde)に前後編に分けてインタビュー。ヒロインの妙にリアルなニート生活や、キャラクターのツラかわいい表情など、作品にまつわる様々なポイントを伺ってみた。
■Twitterの1枚絵から始まった『ニー子はつらいよ』
――『ニー子はつらいよ』はどんな経緯で生まれたのでしょうか?
アルデヒド:きっかけはTwitterに上げた1枚絵でした。もともと「漫画を描きたいな」という気持ちはあったのですが、イラストのお仕事が忙しくてなかなか時間が取れなかったんです。でも、比村奇石さんの『月曜日のたわわ』を見て、「こんな発表の仕方もあるんだ!」と思いまして。自分でもTwitterを使って何か連載をできないかなと考えるようになって、題材として浮かんだのがニー子だったんです。
――初めてニー子をTwitterにアップしたのはいつ頃に?
アルデヒド:2015年8月にアップした、「夏のニート」というタイトルのイラストが最初ですね。初期のニー子は、「自分の生活を配信してユーザーから投げ銭をもらって生活している」という腹黒い設定で、今とは全然違うキャラクターでした。ネットでも評判が良くて、個人的にも気に入っていたのですが、次にもう少しキャラクター性を押し出したイラストをアップしてみたところ、あまり伸びなくて。
――何が原因だったんでしょうね。
アルデヒド:僕はTwitter以外の投稿サイトにもイラストや二次創作をアップしていますが、たとえばピクシブやニコニコはフォロワーの方々が見てくれることでランキングが上がって、PV数が伸びていきます。
でも、Twitterはやっぱりリツイートされるかどうかが大事で、読み手の感情を大きく揺さぶって共感を誘わないと、なかなかリツイートを押してもらえないのかなと。ニー子もその結果をふまえてキャラクター路線を変更して、もっとニートっぽく親近感を意識しながら、哀愁の漂う今のデザインに寄せていったんです。
――その流れでコミックキューンさんからお誘いがあったわけですね。
アルデヒド:そうですね。いくつかの編集部さんから「Webにアップしている漫画をまとめて単行本化しませんか?」というお誘いをいただいていましたが、コミックキューンさんは「(ニー子で)描き下ろしの4コマ漫画をやりませんか?」というお誘いだったので、興味を持ちました。ただ当時は1枚絵、つまり1コマ漫画での投稿だったので、4コマという決まったフォーマットでストーリー性のあるものを描くという未知の領域にチャレンジする決心がつかず……。それで一度お断りをさせていただきました。
でもその後、「やっぱり挑戦してみよう」と今まで温めていた1枚絵のネタを漫画形式にして、Twitterの投稿枚数(最大4枚)を利用してアップしてみたところ、1枚絵の頃よりたくさん反響をいただけて。それが何回も続いたことが自信につながりました。それで再度、コミックキューンの編集者さんから連載の打診をいただいた時にお受けしようと思ったんです。
■実体験が反映されたニー子の「あるシーン」とは?
――これはぜひお聞きしたかったのですが、先生はニー子と同じような体験をしたことがありますか?
アルデヒド:僕は今実家暮らしなので、そういう意味ではニー子と同じですね。僕も何かをやらなくちゃいけないとプレッシャーを感じた時に、おなかが痛くなることがありますし(笑)。やっぱり普段の生活で、自分の体験や家族とのやり取りからエピソードに発展させられるケースは多いと思います。
僕の場合はイラストの専門学校を卒業してフリーになって、初めの3年くらいは仕事があったりなかったりした時期がありました。「自分のやりたいことを仕事にしたい!」という理想を持っていたけど、現実とのギャップに戸惑って無気力になってしまったというか。
それからもっと開き直ってマインドを変えて、業界のニーズに合わせながらやるという意識を変えていくにつれて、だんだんとイラストのお仕事が来るようになりました。同人誌なども継続していましたが、そういった活動も考え方を変えていくことで実績や収益につながるようになって。一昨年から去年にかけてはイラストのお仕事で精いっぱいだったのですが、徐々に別のことが考えられるくらいキャパシティが広がってきたので、もともとやりたかった漫画にチャレンジした感じです。
――具体的に『ニー子はつらいよ』の中で実体験が反映されているエピソードは?
アルデヒド:第4話で、母親から言われて部屋を片付けないといけないのに、スマホをいじり出したりとか。あれは完全に僕です……。最後で自己嫌悪になるあたりまで、当時の僕とかなり近い状況をニー子にやってもらいました(笑)。あとは母親との会話とか、家族の言動だったり思いだったりも入っていますね。ケンカ中でも「行ってきます」って言っちゃうとか。
編集担当:アルデヒドさんは妹さんがお二人いらっしゃって、ニー子といも子のやり取りもそこから参考にしていると言っていらっしゃいましたよね。
アルデヒド:そうですね。2人とも自分と近い年齢なんですけど、未だに妹同士でお風呂に入ったりしていて。なのでニー子といも子がお風呂に入るシーンとかも、ありえない設定と思われがちですが、身近にそういう人がいるという。そういった色々な人の要素を取り入れながら組み上げている感じだと思います。
■かわいさとツラさを併せ持ったヒロインの表情
――ちなみに先生は描くのが好きなモチーフや体のパーツなどはありますか?
アルデヒド:イラストを描いていて好きなのは表情です。特にデフォルメさせず真顔のパーツをやりくりして歪んだ表情を作るというのが好きで、いつもこだわっている部分です。
――たしかにニー子って引きつった表情がすごく特徴的ですよね。
アルデヒド:ありがとうございます。特にこだわっている部分なので、そう言っていただけると嬉しいですね。ただ歪めて不細工な感じにすることもできるんですけど、せっかくならかわいらしさもありつつ変顔をさせたくて。その微妙なニュアンスを頑張ってる感じです。
――先生がおっしゃるように、ニー子のかわいさだけでなく、本気でツラそうな部分が描かれていることで、作品のアイデンティティが保たれているように感じます。描く時に意識していることはありますか。
アルデヒド:やっぱり本筋のテーマは「ニートをしていてツラい」いという部分なので、そこは意識しています。ただ、それだけだとツラすぎるし、単純に自分が読みたくないなというのもあります。ただの自己主張だけで終わらないように、ニー子というキャラクターのかわいい一面や、普通の女の子の日常感を挟みながら。あとは家族からあまり疎まれていない感じで普段の生活が描けるとバランスが取れるし、読んでいただく方にとってもツラいけど恋するところもあるのかなって。そういうギャップも感じてもらえたらと思いながら描いていますね。
――たしかに、ニー子にとっても漫画にとっても、家族から愛されているってすごく大きなポイントだと思いました。
アルデヒド:最初は家族からかなり辛辣な扱いを受けてるネタとかも考えていたのですが、連載する前に友達に「こういうのどうかな?」と読んでもらったら、「ツラすぎる」と言われまして(笑)。やっぱり家族は普通に優しく接してくれた方が良いんじゃないかということで、今の関係が最終ラインになっている感じです。とはいえ、この作品はニー子がニートでツラい部分とか、ちょっと腹黒いところとか、家族に邪険にされてるところとかを掘り下げていくと面白くなると思うので、できるだけギリギリのラインを頑張って探ってる感じです。
■ニー子の最終目標は就職? それとも?
――ニー子の最終的な目的ってやっぱり就職なんですか?
アルデヒド:(笑)。そこは僕自身も分かってないですね……。
編集担当:打ち合わせでもたびたびその話題が出てくるのですが、まだ決めかねているんですよね。
アルデヒド:そうなんです。ただ、ちゃんと成長させたいなとは思っています。というのも、6~7話のようなシリアス回を描いた時に、僕個人ではちょっとやりすぎたかなという感覚もあったのですが、読者の方々がけっこうしっかりと向き合って読んでくださって。こういうコメディの中にシリアス要素を入れてもちゃんと付いてきてくれるのかなあって思いました。その結果どうのなるのか。今の時代、必ずしも就職がゴールというわけでもないと思うし、この先考え方が変わるかもしれませんし……。僕自身まだ初連載ですし、スタートが1枚絵から始まっているので、当初はそこまで考えていなかったということもあります。うーん、でも月一くらいで本気で悩みますね。結局答えが出ないのですが(笑)。
――とはいえニー子が成長していくストーリー漫画の流れにしていきたい。
アルデヒド:そこもうーん……。ニー子を成長させたいというのは1巻を描き上げて芽生えた意識なので、もっともっと考えて、掘り下げていかないといけない部分がたくさんあると思います。でもまあ、『サザエさん』方式みたいな無限ループを始めたら「コイツ逃げたな」って思ってくれていいです(笑)。
――ありがとうございます。最後に『ニー子はつらいよ』の今後の見どころや、読んでいる方々に向けてメッセージをお願いします!
アルデヒド:やっぱりニー子のいつも通りの様子を楽しんでもらえたら一番嬉しいですね。ニートネタを使ったコメディ漫画ですが、時にシリアスだったり、成長したりするドラマも描いていきたいなと思っているので、そのあたりも見どころじゃないかと思います。
自分自身の活動としては、商業だけでなく同人も引き続き頑張っていきたいです。いつもコミケに出店した時、お客さんがやってくる開場10分前に友人と「誰も来なかったら終わりだよな」なんて冗談をよく交わしているのですが(笑)、『ニー子はつらいよ』を連載していると本当にその通りだなと実感してます。漫画家というお仕事は、応援してくださる方のジャッジで成り立っているので、読んでくださる方々への感謝の気持ちがより一層強くなりました。
本当にいつも読んでいただいてありがとうございます! そして今後ともニー子共々、引き続きどうぞよろしくお願いします!!
(後編へ続く)
取材・文=小松良介