意識高い系、やりがいの搾取、ブラック企業…。ゆとり世代の転職の真相は?

ビジネス

公開日:2018/6/7

『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか? キャリア思考と自己責任の罠(』(福島創太/筑摩書房)

 若者の転職が増えているという。大学卒業後の就職から3年以内の離職率が3割であることを表す「3年3割」という言葉はよく耳にする。厚生労働省の調査によれば、実はその3年のうち最も離職率が高いのは入社1年目となっている。

 すぐに転職する若者は「ゆとり世代」と呼ばれる世代の一員であり、彼らに対する世間の視線は決して温かいものとは言えない。「世間知らず」「我慢ができない」「その日暮らし」などといった言葉も投げつけられかねない。

『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか? キャリア思考と自己責任の罠』(福島創太/筑摩書房)という書籍では、自身もゆとり世代である著者の視点から、ゆとり世代の転職事情の研究結果が解説されている。著者の福島氏は1988年生まれの教育社会学者。早稲田大学卒業後に株式会社リクルートに入社し、転職サイト「リクナビNEXT」の企画開発などに携わる。退社後、東京大学大学院入学し、現在は同大学博士課程で研究を行いながら、中高生向けのキャリアプログラムの開発にも従事している。

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■「自分らしいキャリア」って、結局何だろう?

 上述の経歴からもうかがえる通り、著者自身も一般的な企業内のエリートコースからは少し外れた人生を歩んでいるようだ。そんな著者は、「自分らしいキャリア」という言葉に違和感をおぼえるのだという。

 就活の面接では「志望動機」や「将来何がしたいか」を聞かれ、常に主語が「自分」であることが求められる。そして面接時間の多くが「意識」の確認に割かれる。
「自分が何をしたいのか」を唯一にして最大の判断基準にして、自分自身のキャリアを自ら描く。高度経済成長期を支えた世代からは考えられない、“自由にキャリアを描く時代”がやってきたのだ。ゆとり世代であり、本書の言う“若者”と同じ時代を生きてきた筆者は、そう思って大学生のときに就職活動をした。

 このような状況下で就活生は無意識のうちに「理不尽な自己責任」を要求されているのではないか?というのが著者の抱いた違和感の正体だった。

 本書はすでに転職を経験した20代へのインタビューと、キャリア面談へのフィールドワークという2つのデータ分析によって構成されている。若者の転職率の増加の事実とその社会的背景を確認し、若者を対象に行ったインタビューの紹介と分析がなされる。そしてキャリア形成や転職という個人における“大きなライフイベント”を社会構造の観点から見直し、転職する若者のキャリアをより豊かにするにはどうすれば良いのかを検討する仕様となっている。

「ゆとり世代」という言葉に任せて、有象無象の責任を彼らに押し付けてはいないか?「彼らが変わってくれればいい」と考えてその責任をゆとり世代に一任するのではなく、社会全体がコミットしなければこの問題は解決できないことを痛感させられる。

文=K(稲)