この男、敵に回したくない…! 下衆をもって下衆を制す! 警察内の不祥事を「許さない」イケメン警部補

マンガ

公開日:2018/6/10

『野宮警部補は許さない』(宵田佳/徳間書店)

 大人になると、正義の味方の集団にも、悪人が平然と存在していることがわかる。そして残念なことに、トラブルを引き起こす“困り者”には、「真摯な態度で正論を語る」という行為が、ほとんど意味をなさないことが多い。自らの非は決して認めず、論点のすり替えや言い訳で追及を逃れるからだ。結果、弱者ばかりが損をすることになる。

 だが、そんな現実に涙を飲む前に、ぜひ読んでほしいマンガがある。宵田佳の『野宮警部補は許さない』(徳間書店)だ。

 本書は、警察内の不祥事やトラブルを解決する役割を担った「特別対応室」を舞台にしたマンガである。

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 物語は、前部署での実績が認められ、憧れの警務部へ異動となったばかりの橋本檸美の目線で描かれる。エリート部署に配属され、気合十分で特別対応室の一員となった彼女だが、初日から、上司曰く「人見知り」だという、檸美の教育係となったイケメンの野宮警部補の行動に度肝を抜かれる。

 なぜなら彼は、上から目線のパワハラ刑事や、親の七光り警察官、SNS依存の交通課の女性巡査……と、決して自分の非を認めない猛者たちを時には軟禁するなどして、問題を解決していたからだ。そう、自らも「下衆な行動」をとり、相手を真っ青にさせていたのである。

 特に印象的だったのは、スマホのメッセージで、二回りも年上の巡査長に、ひどい中傷・ハラスメントの文章を送りつけていた警部補たちの話である。

 匿名の告発で発覚したイジメの調査は、檸美一人が追及しても、例によりまともに取り合ってもらえない。

 実は、51歳の地域課の巡査長は、勤務中に女性物の下着を身につけていたのがばれたのがきっかけで、30歳前後の警部補たちにイジメを受けていた。そのため、後ろめたさから、真実を話すことができないでいたのだ。

 そこで野宮は、あの手この手でワナを仕掛け、警部補たちに嫌がらせを行っていたことを自白させる。そしてとうとう「こんな変態が警察官やってる事こそ公益に反するわ」と叫んだ女性警部補に、こんな反論をしたのだ。

もしも 何らかの瑕疵(かし)がある人間を 攻撃していいという考えをお持ちなら 私があなた方の人生を調べあげましょう 全て 言葉は全て自らに返ってくるのですよ それを受け止める覚悟が無いなら―― 石を持ち上げた手を下ろすべきです 今すぐに

 そして彼らに、自分たちがどれだけ恥ずかしいことをしたのか実感してもらうため、骨の髄まで染み渡るような、キツ~イお灸をすえたのであった……。

 その結果、巡査長には、再び警察官として普通に働けることを心から感謝される(女性用下着は勤務時間外に着用することも約束する)。

 檸美は仕事を通して、特別対応室の仕事は不祥事を起こした職員を処分して終わりではなく、その先も警察社会で生きる人たちのために、“安全に働ける職場を守る”ためにあることを実感するのだ。

「許さない」野宮は、“下衆をもって下衆を制す”大人気ない一面を持つ警部補だが、彼が完全に悪かと言われれば、それは違うだろう。悪意に満ちた人間相手には、できる限りの情報を集め、様々な手段で戦わなければならない時がある。警察内部だけではなく、我々の日常にも。そういった意味で、勧善懲悪コメディである本書は、ニヤリとさせられたし、爽快な気分で読み終えることができた。野宮警部補の活躍と檸美の成長がますます楽しみである。

文=さゆ