「カルト村」を脱出したひとりの女性の後日談! 一般社会で直面した「お金のリアル」とは

マンガ

更新日:2018/6/18

『お金さま、いらっしゃい!』(高田かや/文藝春秋)

 厳しい体罰に情報統制、まるで軍事国家のような支配が横行する「カルト村」で生まれ育った作家・高田かやさん。村の驚くべき実態やそこでの生活ぶり、やがてその村を離れるまでを描いた『カルト村で生まれました。』『さよなら、カルト村。』(いずれも文藝春秋)は、発売直後から大きな話題を集め、重版が相次いだ。

 2作目となる『さよなら、カルト村。』で、愛する夫との現在の暮らしぶりも明らかにし、どんな状況下でも幸せは手にできることを証明した高田さんだが、このたび発売された3作目『お金さま、いらっしゃい!』(文藝春秋)では、新たな視点で「カルト村」で育った影響について描いている。そのテーマとなっているのは、「お金」だ。

 そもそも、村で育つ子どもたちには、お金に触れる機会がほとんどない。農業を基盤としている生活共同体のため、生活のすべてが自給自足。お金のやりとりは一切必要とされておらず、物は共有、お小遣いが存在しないのはもちろん、万が一お金を隠し持っていることがバレてしまったら即没収されていたという。

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 そんな高田さんが初めて大金を手にしたのが、19歳の頃。村を出て始めた病院でのパートで稼いだ「13万円」に、感激したのだとか。それもそのはず、村では非常に厳しく労働させられていたのに対し、一般社会ではやさしい同僚に囲まれながら清潔な職場で楽しく働けるのに加え、お金までもらえるのだ。「なんだ 一般社会 楽勝じゃん!!」。高田さんがこう感じるのも、納得だろう。

 本作では、そんな高田さんが少しずつお金というものに向き合っていく流れが非常に丁寧に描かれている。最初の頃はその使い道すら見出だせず、ただ貯金するだけだった高田さん。しかし、徐々に物の価値を知り、お金を使うことの楽しさに目覚めていくさまは、とてもいきいきとしており「人間らしい」ともいえる。本作は、カルト村を脱出したひとりの女性が、お金というツールを通して「社会」とどのように接続されていったかを追いかけた、ひとつの成長譚でもあるのだ。

 とはいえ、抑圧から解放され、散財するようになるわけではない。高田さんは独自のルールを設定し、実に有意義なお金の使い方をしてみせる。その背景にあるのは、もちろん村での経験。「我慢すること」が当たり前だった経験がうまく活かされているといえるかもしれない。

 そこで思うのは、高田さんの過去の捉え方の素晴らしさだ。先に発表された2作でも描かれている通り、村での経験はつらいことだらけだった。忘れてしまいたい、なかったことにしたいような出来事だってあったはず。しかし、高田さんは自身の過去をまるごと引き受け、現在に活かし、すべてを楽しんでいるように見える。だからこそ、幸せを手にすることができたのだろう。

 あればあるだけ、そのありがたみを忘れてしまいがちな「お金」。本作を通じ、高田さんの持つ新鮮な価値観に触れることで、なにか大切なことを思い出せるのではないかと思う。

文=五十嵐 大

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