「子どもはすぐにできると思ったのに…」不妊治療の日々を赤裸々に描く『コウノトリのかくれんぼ』
更新日:2018/6/25
不妊治療の実体験を赤裸々につづったコミックエッセイが『コウノトリのかくれんぼ』(ポチ子/セブン&アイ出版)。本書のポイントは、ひとつひとつのエピソードのリアルさ。不妊治療をした誰もが感じる苦しさ、辛さ、一喜一憂の落胆、そして心温まる周囲のはげまし…。妊活は、苦しくもあり、時に夫婦の絆を深める共同作業でもあります。本書で描かれている「ありのまま」の日々が、自分と重なるという人も多いでしょう。
■“多数派”からこぼれ落ちた日
ポチ子さんが不妊治療を始めたのは2015年のこと。36歳にして初めて訪れたクリニックで、衝撃の事実を知ります。体外受精を試みても受精卵はゼロ。思いがけない可能性を医師から示唆されました。
初めての通院に検査、慣れない治療と、いろんなことに頭がパンクしそうになるなかで、導き出された「受精障害」の可能性。その診断を聞いたときのポチ子さんは次のような心境だったそうです。
妊娠できる多数派からこぼれ落ちてしまい、ただただ取り残されていき、ただただ治療費はふくれあがり、ただただ気力はそがれていく……。そんな負の思考ばかりがぐるぐると回っていました
普通に生活して、普通に健康なのに、妊活で知る自分の体のこと。多くの不妊治療患者と同じように、ポチ子さんもまずその事実に打ちのめされそうになりました。
■情報格差が夫婦のすれ違いを生む
妊活は夫婦二人三脚で行うもの。パートナーである夫の理解は欠かせません。でも頻繁に病院へ通い、医師から話を聞き、痛い思いをするのは女性の場合がほとんどです。
通院するだけでも負担になる。この思いを共有できないために、すれ違いとなる夫婦も多いようです。幸い、ポチ子さんのご主人は不妊治療に理解を示し、協力的でもありましたが、けれどもやっぱり温度差に悩まされることもあります。
一方でご主人は頼りになるパートナーでもあります。悲しみのキャパがあふれたとき、見守り、そして励ましの声もかけてくれます。
■こんなにお金を使ってもコウノトリは来ない
また、不妊治療はお金との戦いでもあります。自治体によって助成金があるとはいえ、制限もあり、多くの費用を自己負担しなければなりません。「採卵できなかった」「受精しなかった」「着床しなかった」…治療が思うように進まなくても費用はかかります。
ポチ子さんは、お金に関しても包み隠さず記しています。3年あまりの治療で支払ったのは、約588万円。そのうち助成金で補われたのは115万円。合計で473万円の出費となりました。けれども、いまだポチ子さんのところに、コウノトリはやってきてくれません。
ポチ子さんをはじめ、多くの不妊治療中のカップルは、心や金銭に大きな負荷をかけてでも、「子どもがほしい」という思いは変わりません。中には「治療をしてまで子どもを願うなんて、自然に反するのではないか」「自分はごう慢なのではないのか」そう自己否定する女性も。でもそれはあなただけではありません。
このエッセイの初めに、こんなことが書いてあります。
「治療についての解説や、ためになる知識を教えるものではありません」
でも本書は、妊活のネガティブな感情を緩和してくれる力があります。「妊活」なんて言葉がつい最近までなかったように、不妊治療は新しい医学です。だからメンタルケアにまで手が回らない状況です。辛いとき、苦しいときにこのエッセイは一服の癒やしとなるでしょう。
文=武藤徉子