“ちょいエロ”は日常の中に潜んでいる……むっつり小学5年生の執念がすごい『江口くんは見逃さない』
公開日:2018/6/23
電車の中でスマホを見ていない人の方が珍しく思える時代になった。歩いていてもスマホを見つめている人もいて、たまに危ない。スマホのゲームもSNSももちろん面白いのだけど、もしかしたらもっと“良いこと”が身近に起きているかもしれない。
野澤ゆき子著『江口くんは見逃さない』(徳間書店)は、小学5年生の江口くんが、日常の“ちょいエロ”を発見するギャグ漫画だ。
あくまで“ちょいエロ”なので、たとえば恥部があらわになったり、アクシデントでつい女性の胸を揉んでしまったり、などといった過激な表現は一切ない。それは、風が吹いたときにスカートからパンツがチラリと見えたり、シャツのボタンが外れて中のブラジャーがのぞいていたり、荷物を運ぶお姉さんの大きな胸が段ボールに乗っていたり、そういうとてもささやかなものだ。
本作は、『よこしまな江口くん』に続く江口くんシリーズなのだが、この江口くんが意外と紳士なのもまたいい。決して自分から何かアクシデントを起こそうとするわけではなく、ちょいエロが起きそうな場面を察知すると、すかさずいいポジションをゲットする。パンチラが見えたとしても、騒ぐわけでもなく、頬を染めて満足そうに頷くのみ。ときには女性に対する配慮を見せたり、転びそうなおじいさんを全力で助けようとしたりと、成熟さまで感じてしまうほどだ。
小学5年生が見逃さないことを、大人たちはまるで気にも留めないで生きている。ある話で、買い物帰りの母親を待つ江口くんと、彼女の買い物帰りを待つ若い男性が、二人並んで外で立っているシーンがあった。江口くんは、遠方にいる“ちょいエロ”を発見しニコニコする一方で、若い男性は買い物が遅い彼女に文句をたれながらゲームをしている。
実は世界にはたくさんの“ちょいエロ”が潜んでいて、私たち大人はそれに気づかないまま退屈だとスマホばかり見ているのかもしれない? ……まあ、“ちょいエロ”に目を光らせて歩いている大人がいたら、それはそれで気持ち悪いのだが。そう考えると江口くんのいく末が少し心配になった。
文=園田菜々