サッカー中継を10倍深く楽しもう!【後編】 サッカー中継の見方が変わればサッカーはもっとおもしろくなる!

スポーツ・科学

更新日:2018/6/25

『解説者の流儀』(戸田和幸/洋泉社)

 日本がコロンビアに勝利するという「小さな奇跡」が起こったことで、ますます盛り上がるFIFAワールドカップ2018ロシア大会。「サッカーワールドカップ」ではなく、プレーンに「ワールドカップ」と呼ぶのは、W杯がサッカーから始まったから。イングランドのサッカー協会が「FA(Football Association)」と“England”を含まないのも同じ理由。第1号のプライドがあるのです。

 そんなサッカー小知識を交えつつ、『解説者の流儀』(戸田和幸/洋泉社)の著者である戸田氏の解説スタイルをもとに「サッカー中継を10倍深く楽しむためのポイント」をお届けしよう!

■サッカー中継の見方が変わればサッカーはもっとおもしろくなる!

 コロンビア戦の視聴率48.7%には、普段はサッカーを見ない人も大勢含まれている。せっかくサッカーで盛り上がったのに、大会が終わったら熱が冷めてしまうのはもったいない。

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「サッカーの本当のおもしろさ」に気づいてもらえたら、サッカーはブームではなく、文化として根付くことができるのに、残念ながら日本のサッカー中継は「日本代表の活躍」「スター選手の活躍」ばかりに目が向くように作られている。それはなぜか?

野球や大相撲のように、1対1の勝負やわかりやすい局面が用意されているわけではない。局面を発見するのは観客であり視聴者だ。局面に気づかなくても楽しめるかもしれないが、気づけば、さらに面白さが増す。

 だからこそ、戸田氏はサッカーの本質や監督の重要性、選手たちが五感と頭脳をフル稼働させて繰り出すプレーを、可能な限り正しく解説することに注力してきた。

試合前に注目選手を挙げないこと。安易なキーワードに逃げないこと。人対人という一瞬だけを切り取らない。

 日本のサッカー中継や特集は「一般視聴者を巻き込む」ために、スター選手にスポットを当て、キーワードを強調し、個人の活躍を切り取る傾向がある。「サッカーの本質に目を向けてもらう」ことを目的とする「戸田スタイル」とは逆のベクトルになるが、サッカーに馴染みのない人からしてみれば、そこは「とっかかり」でもある。

1.「注目の選手」を支える「縁の下の力持ち」を「目と耳」で探そう!

 サッカー初心者からしばしば聞こえてくるのが…「誰を見ていいの?」「どこを見るとおもしろいかわからない」という「サッカーの難解さ」への嘆き。

 11人対11人の組織のぶつかり合いが、サッカーのおもしろさのひとつなのだが、野球や相撲の「個人戦」に馴染みの深い日本人には、どうしても「わかりにくい」。

 ゆえに、日本のサッカー番組や中継は「注目のスター選手」をプッシュし、メッシ選手やC.ロナウド選手などが登場すると、ひたすらその選手の一挙手一投足を追って、名前を連呼する。その結果、その選手だけが活躍しているように思えてしまうし、スター不在の試合は「おもしろくない」と思われてしまう。

 しかし実際には、スター選手の活躍は「縁の下の力持ち」たちが支えているからこそ成り立つ。また、スターがいないチームは、相手チームのスターを倒すために「仲間で協力して立ち向かって」いる。

 日本人は「目立たないけどがんばっている人」が大好き! そこに気づけば、スター選手なんていなくても、充分感情移入して見られる!

 気づくためのカギは「実況」だ。サッカー実況というのは、世界各国共通で、ボールの流れを選手名で追うのが基本。今、誰がボールを所持していて、ドリブルするのかパスをするのか、そのパスの緩急高低はどうか、などを短い言葉でつないでいく。

 映像にはもちろんそれが映し出されているが、選手名やボールの動きを「音」で感じると、「試合のテンポ・リズム」がわかるようになる。

「ああ、今は試合が激しく動いている」「一方的な展開だな」「この選手の名前が多く出てくるから、ボールに絡んでいる」といったことが、体感できるようになる。名前をよく聞く選手は、自然とボールに絡んでいない場所でも動きが目につくようになるから不思議。

「あれ、この人、スターじゃないけど活躍してるんじゃない?」と感じられるようになったらしめたもの! スター+縁の下の力持ち=2倍楽しめる!

2.「キーワード」や「人対人の一瞬」をまったりじっくり味わおう!

「戦術や用語がわからない」――これも、サッカーが敬遠される理由のひとつ。確かに戦術は奥が深いし、用語もすぐにはピンとこない。

 テレビ中継の場合、試合の前後やハーフタイムには、「用語解説」や「戦術」の説明が、ほどよく挟まれている。番組制作サイドとして「キーワード」や「人対人の一瞬」をプッシュされる場合もあるが、逆にそこは「詳しい解説」を期待できる。その上、試合中のスロー映像などを使って、画面に文字や線を書き込んで、まったりと説明をしてくれるので、とてもわかりやすい。

 戦術の本を読むよりも、今自分が見ていた試合を実例に解説してくれるのを見るほうが理解が早いはずだ。

 得点シーンひとつとっても、何がきっかけでその得点が生まれたのか? どのプレーが試合の流れを変えたのか? 選手のポジションや動きにはどんな意味があるのか? 得点に至ったプレーの「起点」や、プレーの「意図」がわかれば、シュート場面以外も楽しく見えてくるはず! コレを実感したい場合は、戸田氏が解説する試合を見ると、より具体的にわかる! さらに倍で4倍楽しくなった!

3.解説者やアナウンサーのキャラクターを楽しもう!

 解説者やアナウンサーには、それぞれの個性がある。放送局ごとに中継のスタンスも違う。「絶対に負けられない」ことを煽り、サッカーよりもスター選手ばかりをもり立てる放送もあれば、サッカーというスポーツの魅力をつぶさに伝える放送もある。

 解説者もまたさまざまだ。戸田氏は「論理的」に試合全般をキッチリ「解いて説く」タイプだし、元日本代表監督の岡田武史氏は「監督目線」で状況を分析し、両チームの監督が次の手をどう打つかをよく語る。松木安太郎氏は、気取りがない酒場のオヤジのようなトークで「馬鹿騒ぎしながらサッカー見たい人」向け。早野宏史氏は、低くて渋い声で、ときおり視聴者を凍りつかせる紳士のジョークを飛ばす。

 サッカーの本質を伝えることとは違うものだが、見続けていると「クセになる」場合もあるので、試合の展開以外の「トーク力」も要チェック! 倍の倍で8倍楽しくなった!

 ちなみに、6月19日時点で、筆者がテレビ観戦した試合の中でのベスト中継は、「フジテレビ・ベルギーvs.パナマ」の森昭一郎アナウンサー&解説・宮本恒靖さんのコンビだ。聴いているだけで試合が頭に浮かぶ、流れるような実況と、的確でコンパクトで理解しやすい解説が絶妙だった。

 というわけで、前後編でお届けした「サッカー中継を10倍楽しもう!」だが、まだ8倍? いいんです。あとの2倍は「仲間や家族と一緒に見る」「お酒を飲みながら見る」「好きな選手がいるから見る」「ひとりの部屋が寂しいから賑やかにする」…サッカーを見る人に自由にプラスしていただきたいんです!

 最初は「誰だってにわかファン」。まずは「勝ち負け」や「ゴール」に一喜一憂して、「好きな選手」を「好きなチーム」へと広げて、たくさんサッカーの試合を見てほしい。その中で「なぜ?」を感じたとき「解説者の言葉」に答えを求めるなら、きっとサッカーは10倍おもしろくなる。

文=水陶マコト

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