キャッシュレス決済があなたの生活を変える。社会全体への影響は?

ビジネス

公開日:2018/6/26

『キャッシュレス決済革命』(日本経済新聞出版社)

 ビットコインや仮想通貨が近年話題だが、お金に関する社会の変化はそれ以外にもじわじわと進行している。コンビニでの支払いはSuicaなどの交通系マネーだったり、スーパーでは支払専用レジでクレジットカードで行ったりと、日常生活の中で現金を扱う頻度は、格段に減ってきたように思う。ある神社ではお賽銭を電子マネーで払えるようにしたというニュースまであったように、社会はキャッシュレス化に進んでおり、この傾向は日本に限ったことではない。むしろ日本はこのキャッシュレス化の流れが諸外国に比べて遅れているという。

『キャッシュレス決済革命』(日本経済新聞出版社)では、日本のキャッシュレス化の現状や方法、メリットなどについて包括的に解説されている。

■キャッシュレス化で得られるメリット。社会全体への影響は?

 私は見える現金でないと浪費してしまいそうで躊躇もあるのだが、「キャッシュレス化」にはどんなメリットがあるのだろうか。米国では2018年1月にレジなしコンビニがオープンした。ここでは顧客は登録手続きしたスマホをゲートにかざして入店し、買いたい商品を取ってそのまま退店すれば支払いは自動的に完了し、レシートもスマホ上で確認できる。レジに並ぶことも待たされることもない。買い物に行くのに混んでいる時間を避ける必要も、現金をおろしにATMに並ぶ必要もなくなるわけだ。

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 消費者だけでなく、企業や社会が受けるキャッシュレス化のメリットはもっと多岐にわたるという。まず硬貨や紙幣の製造コストが不要になる。現金受け渡しによる盗難や詐欺被害のリスクが低下する。レジ金の集計や確認、釣銭の用意などもいらなくなる。キャッシュレス化されたお金のやり取りはその記録がデジタル化するので、確認や集計の手間が省け取引の迅速化・効率化になるのだ。また、お金の流れが記録として見えるようになるので、地下経済の縮小や犯罪・テロ資金の縮小も見込まれ、税収においてもプラス要素になる。

 逆の見方をすれば、今まで現金を扱うことによる社会的なコストがそれなりにかかってきたことがわかるだろう。米国ではこれらのコストはGDPの1%に達するとの試算もあるくらいだ。

■キャッシュレス決済への移行が、ビジネスチャンスを生む?

 近年話題になるキャッシュレス決済は実はこれまですでに存在してきた。最も歴史があるのがクレジットカードだ。なかでもVisaやマスターカードなど国際ブランドと呼ばれる決済カードは国際規格で標準化されている。どこの国でカードを利用しても決済することができるメリットは、多くの人が享受し利便性を実感しているはずだ。

 電子マネーの代表格は、Suica、PASMOやWAON、楽天Edyなど交通系か流通系のもので、前払い(プリペイド)式が一般的だ。これらは日本独自のサービスなので、ガラパゴス化しつつある。しかしこれには理由もあって、駅の自動改札機を人が0.2秒で通過する間に運賃を計算して金額を引くスピード処理が必要なため、日本独自の通信規格が採用されたからだそうだ。

 デビットカードは、買い物をする際に銀行口座から代金が即座に引き落とされる決済方法だ。クレジットカードのような入会審査はなく、銀行口座があれば基本的にデビットカードを作れる。利用者にとっては、多額の現金を持ち歩かなくてよい、出金手数料がかからない、預金残高以上には使えないなどがメリットだ。その代表格・J-Debitは国内1000以上の金融機関が加盟する日本独自のシステムだが、今後に向けて世界で使える国際ブランドのデビットカードを発行する金融機関も増えているとのことだ。

 キャッシュレス決済は、店舗側にとっても大きなビジネスチャンスになり得る。ゲーム施設を運営するタイトーでは、ゲームセンターのゲーム機に決済用端末をつけ、電子マネーでも利用できるようにした。ゲーム料金は100円玉の利用が主流で、手持ちの小銭がなくなれば両替をしなければならずそこでゲームをやめてしまうこともあるが、電子マネーだとこの中断がない。また、一律なプレー料金ではなく、割引や還元率などで店舗の繁忙状況にも合わせて柔軟なサービス対応をとれる。さらに、決済データをマーケティングに活用することも可能で、1人の顧客がプレーするゲーム機を分析し、それらを隣り合わせに並べて置くなどの工夫もしているそうだ。従業員の大きな負担となっている硬貨の管理が減るのも利点だろう。

 キャッシュレス決済は、お金を払う側も受け取る側も双方にメリットがある。また、増える外国人観光客向け対応としても、今後一層推し進められるべきだろう。

 キャッシュレス化が進み現金の必要性が低くなれば、現在の社会インフラやサービスは大きく変化するだろう。過渡期にある今の情報を整理するのに役立つ1冊である。

文=高橋輝実