薬よりもたった1分の「ツボ押し」が血圧を下げる? 薬剤師が語る、高血圧が国民病になった実態
公開日:2018/7/5
年を重ねるごとに体にガタがくる。腰が痛い、膝が痛い、目が悪い、記憶力が悪くなった……。こういった不調の中でも、最も多いのが「高血圧」だ。
『薬に頼らず血圧を下げる方法』(加藤雅俊/アチーブメント出版)に掲載されている、厚生労働省が3年ごとに行っている「患者調査」の平成26年データによると、「高血圧性疾患」の総患者数(継続的な治療を受けているとされる患者数)は、1010万8000人。第2位の「歯肉炎および歯周疾患」331万5000人を大きく引き離し、堂々の1位となっている。高血圧は国民病。もはや日本人が高血圧で悩まされるのも、高血圧の薬に頼るのも、ある種仕方のない部分があるかもしれない。
……という常識に騙されてはいけない! 本書の著者で薬剤師の加藤雅俊さんは、高血圧に諦観してしまった私たちに警告を送る。
本書では、患者数が最も多いとされる「高血圧」の本当の実態、薬剤師が見た製薬業界の裏側、世間にまんえんする「減塩志向」のワナ、そしてたった1分で血圧を下げる方法などを紹介している。
本書を読めば、私たちがいかに高血圧の本質を知らずに、病院で言われるままに薬をもらって飲んでいたか理解できるのだ。その内容の一部をご紹介していこう。
■高血圧が国民病になったワケ
私たちの心臓は、力強いポンプ作用によって24時間休むことなく全身に血液を送り出している。このポンプ作用(心臓の収縮)によって血管内に生じる圧力のことを「血圧」と呼ぶ。
では、この血圧がどの程度を超えたら「高血圧」になるのだろうか。現在、医療者が高血圧治療の教科書にしているのが「日本高血圧学会」の「高血圧治療ガイドライン2014」に定められた数値だ。健康な前期高齢者までの年齢の場合、収縮期血圧が140、拡張期血圧が90を超えると、高血圧と診断されてしまう。
しかしこの数値は近年になって定められた数値であり、少し前まではもっと基準が緩かった。
1960年代後半に医学部で使われていた「内科診断学」によると、「最高血圧=年齢数+90」。つまり50歳ならば、最高血圧が140に収まっていれば正常だったのだ。
ところが1999年を境に、世界中で「高血圧」の基準値が下がり始める。世界保健機関(WHO)と国際高血圧学会(ISH)は、血圧を下げる目標を130未満にする「正常高値」という概念を打ち出し、140/90以上は高血圧と定義。日本高血圧学会もこれにならい、2000年に同様の数値を高血圧に定め、「130/85未満」を目標数値に設定した。
この結果、2000年の高血圧患者は718万人と、急増してしまう。しかし、まだこの時点では「60歳以上の高齢者の最大血圧の目標値は140以下」「70代は150~160以下」「80代は160~170以下」と緩やかに定められていた。
ところが、2003年に日本高血圧学会は「60歳以上の高齢者も60歳未満の基準で降圧剤を処方する」と変更する。さらに2008年に始まったいわゆる「メタボ健診」で、130/85を上回ると特定保健指導の対象と定義。こうしてこの年の我が国の高血圧患者は約800万人にまで増加。
このように高血圧が国民病になった背景には、「血圧の基準値」が年々下げられてきた事実があった。
■「薬」で高血圧は治らない
しかし高血圧が体に悪影響を及ぼすのは間違いのない事実だ。正常の範囲を超えて血圧が上がるほど、虚血性心疾患の発症率もグンと上がる。だから基準値が年々下げられたのも仕方がない。
ただ、本書で加藤さんが強く訴えているのが、「血圧を下げる降圧剤を飲んでも、正常血圧の人と同じように健康に長生きできる医学的根拠はない」ということだ。あくまで「高血圧は死亡リスクが上がる」という確固たるデータが出ているだけで、「降圧剤を飲むと健康寿命が延びる」ことと同じではない。
そもそも年齢を重ねれば血圧が上がるのは自然な現象だ。「心肺機能の低下」や「血管の硬化」によって、若い頃より血圧が上がっていくのは避けられない。加藤さんは「最高血圧=年齢数+90以内ならば正常値の範囲ではないか?」という見解を示し、さらに本書でこう述べている。
「薬」で高血圧は治らない
薬はあくまで一時的なもの。問題を先延ばしにする「対症療法」に過ぎないのだ。これからは薬を飲むことじゃなく、薬を手放す方法を考えよう。
■たった1分で血圧を下げる方法
ここまでの内容は本書の一部にすぎない。この他、高血圧患者が増えたことで儲け続ける製薬会社の実態と思惑、1日の食塩摂取量が6~14g以内の人には高血圧発症の相関関係が見られない事実など、高血圧に危機感を覚える私たちに正しい知識を授ける内容が満載だ。
そしてこの記事の最後に、たった1分で血圧を下げる方法をご紹介したい。それはツボ押しだ。
ツボ押しは中国で発展した東洋医学の1つ。正直なところ「気」や「功」といった香ばしいイメージが漂うが、これを西洋医学の観点から見ると、景色が一変する。
加藤さんによると、そもそも「ツボ」とは「神経が集中している場所」のことだ。神経が集中している場所は、脳の指令や体の各器官からの情報で交通渋滞を起こしがち。このツボを刺激してあげると指令や情報がスムーズになり、体の修復命令が出しやすくなる。ツボとは、正常化を促す「体のスイッチ」なのだ。
本書では、降圧に効くツボ「人迎」が紹介されている。このツボの場所や正しい押し方が写真付きで紹介されており、たった1分で、誰でも手軽に試せる内容になっている。
生きているとどんどん体が老いて、あちこちに不調が現れ始める。健康に長生きするにはその不調を治療することが大事だが、その手段が「その場しのぎ」の「対症療法」ではちょっとまずい。目の前の薬を飲む前に、まずは血圧の仕組みやその実態を飲み込んでみると、本当に正しい治療の形が見えてくるはずだ。
文=いのうえゆきひろ