敵は社内にあり!? イノベーションを阻むありがた迷惑な社員たち

ビジネス

公開日:2018/7/3

『「事業を創る人」の大研究』(田中 聡・中原 淳/クロスメディア・パブリッシング:発行、インプレス:発売)

 新卒の採用説明会では、どの会社でもたいてい「イノベーションを起こす人材」を求めている。しかし、入社した後、実際に新規事業に携わる人はごくわずかだ。そのため、社内の新規事業は周りの理解を得ることがむずかしく、あいまいな理由でプロジェクトが見送られてしまうこともある。本書『「事業を創る人」の大研究』(田中 聡・中原 淳/クロスメディア・パブリッシング:発行、インプレス:発売)は、こうした新規事業における“人と組織”の問題に注目し、新規事業に挑戦しやすい組織の作り方を提案している。

■新規事業の敵は社内にあり

 本書の調査によれば、新規事業創出経験のある人のうち約25%が、「お金の無駄遣いだと思われていた」「批判の対象になっていた」と答えるほど、社内から新規事業への風当たりは強い。さらに、以下のような “思いがけない敵”によって邪魔されてしまうこともあるという…。

【ノープラン風見鶏上司】
 新規事業に対する情熱や具体的な見通しがなく、経営陣の意向によって方針がコロコロ変わる上司。場当たり的なマネジメントは、新規事業を推進する上で大きな障害となる。

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【無責任なありがた迷惑ノイズ】
 関係各所から寄せられる「俺ならこうするけど?」という無責任なアドバイス。その多くは具体性に欠け、ひとつひとつに対応していると単純にスピード感が落ちる。

【同じ釜の飯を食った敵】
 前部署の同僚からも、新規事業に対して容赦のない批判を受けることがある。心を許してプロジェクトの問題点を打ち明けると、勝手な解釈で「新規事業崩壊の危機」といったうわさが社内に流れることもあるそうだ。

 これを読んで「耳が痛い」という人もいるのではないだろうか。「自分は新規事業に関係ない」と思っている人たちも、そのスタンスが無意識のうちに新規事業に対する壁になっているかもしれない。

■新規事業を成功させる人の特徴

 それでは反対に、新規事業を成功させる人は、どんな特徴を持っているのだろうか。本書によれば、新規事業に求められるのは、「革新的なアイデア」と「組織のさまざまな資源を動員するプロセス」の2つだという。しかし、そのアイデアが革新的であればあるほど、周りの人たちを納得させ、有効な資源を集めることはむずかしい。このギャップを埋めるために必要なのが、周りを説得して資源を調達する「ネゴシエーション(交渉)」の能力と、限られた人材と資金の中でまずは実行に取り掛かり、あり合わせのものを作ろうとする「エフェクチュエーション(実効論)」の考え方だ。いわゆる「イノベーション人材」とは、こうした周囲を巻き込むことができる組織人のことであり、組織はそれを見極め、適切に登用し、伸ばしていく必要があるという。

 本書は、こうした「イノベーション人材」をいかに発掘し、どう新規事業を任せるべきか。そのとき周りの社員たちは、どのように彼らを支えるべきなのか、といったところまで踏み込んで解説している。これから新規事業を担当する人だけでなく、彼らと関わる“周りの人たち”にもぜひ読んでもらいたい好著だ。

文=中川 凌