ドレミ…はどうやって生まれたか知ってる? 心地よいハーモニーを科学的に解明!
公開日:2018/7/5
たとえ専門知識がなくても、音楽を楽しむことはできる。楽譜が読めずとも、楽器を演奏することは(ある程度)可能。それでも、私はいまだに思うときがある――音楽の勉強をちゃんとしておけばよかった、と。もしも譜面を読めたなら、音楽はもっとおもしろかっただろうに……。
音楽で使われる音の高さは、ドレミ…と決められている。『音律と音階の科学 新装版 ドレミ…はどのように生まれたか(ブルーバックス)』(小方厚/講談社)によると、その起源は西洋音楽と西欧的合理主義にあるという。
クラシックをはじめとした近代の西洋音楽では、管楽器と弦楽器が主流。100人ものオーケストラが音楽を奏でるクラシック音楽という“建築”には、ドレミ…を基礎とした“設計図”すなわち総譜が不可欠だった。現在のピアノなどの楽器が「平均律」と呼ばれるルールに従って調律されているのはそのためである。
そもそも音とは、空気の振動だ。その音の波を周波数と呼ぶ。周波数が大きいほど音は高く、数値が小さいと音は低い。西洋音楽における平均律では、隣り合う音高(ドとレ、レとミ……)の周波数の比率が均一な12音=1オクターブで構成されている。
※1オクターブ=ピアノの白鍵7音(ドレミファソラシ)+黒鍵5音(ド#、レ#、ファ#、ソ#、ラ#)
12音の音階を用いる平均律の歴史をひもとくと、紀元前6世紀のピタゴラスまでさかのぼる。鍛冶屋がハンマーを打ち下ろす音を聞いたピタゴラスは、複数の音が奏でるハーモニー(協和)に関する考察を始めたという。ポイントとなるのは、音の周波数とその比率。ピタゴラスは2つの音の周波数比が1:2、1:3となる音群を組み合わせて音律をつくった。要するにドの音とよく協和するのは、ドの3倍の周波数を持つソである、といったことを発見したのだ。
ピタゴラスを師とするピタゴラス学派は、万物の根源は数にあると考えており、数学または物理学として音律が研究された。ゆえにこの「ピタゴラス音律」は、あくまでも数学的な計算に基づいたものに過ぎない。とはいえ現在のドレミ…の土台を数学的につくり上げたというのがすごい。
ところで、学校で教わる音楽の基本のひとつに、ドミソの3つを同時に響かせると心地よい、というものがある。2つ以上の音を同時に鳴らしたときの合成音を「和音(コード)」と呼ぶが、ドミソから成る和音が心地よく感じられるのはなぜだろう。本書では、心理学的実験や周波数比などのデータをもとにした検証結果が掲載されている。
それらの中から、心理学の視点から検証したデータを紹介したい。この実験では、多くの被験者に音高の異なる2音を同時に聞かせて、不協和と感じた人数をカウント。多数決の要領で客観的な不協和度を算出している。
実験の結果、同一周波数の2音は協和するが、やや周波数が離れると不協和と感じ、さらに離れると再び協和することがわかった。2音の微妙なズレは不快な「うなり」となって表れ、周波数の差がなければ同じ音に、差が大きければ別々の音として心地よく響く。ざっくり言えば、ドと協和しない音は、ドの両隣のレとシということ。細かい解説については、ぜひ本書をお手に取って確認してほしい。
ちなみに、アラブやインドの民族音楽では、西洋音楽のドレミ…を用いず、より複雑な音を用いている。音高の区切りが曖昧で、歌や演奏は即興的だ。民謡や津軽三味線などの日本古来の音楽にも、西洋音楽のハーモニーは当てはまらない。そのほか、ジャズやロックなどの音楽が、平均律の普及後に生まれたからこそできた試みに関する記述も。譜面の読めない私にとっても興味深い内容だった。音楽に詳しい方でも、本書を読めば新しい発見がきっとあるはずだ。
文=上原純(Office Ti+)