野田聖子、山尾志桜里、辻元清美…。女性議員は政治とどう向き合ってきたのか?
公開日:2018/7/31
2018年5月16日、「候補者男女均等法」が参院本会議で全会一致で可決・成立した。これは国会議員や地方議員の候補者数を「できるだけ」男女均等になるように政党に促すもので、法案の制定に深く関わっていたのが野田聖子・総務大臣兼女性活躍担当大臣だ。野田大臣はこれまで一貫して、政治分野における女性の参画を訴えてきた。しかし2017年の衆院選挙での女性当選者は10.1%しかいないのが現状だ。
果たして女性は政治に向かないのか。そんな疑問を解決してくれそうなのが、『女は「政治」に向かないの?』(秋山訓子/講談社)だ。
同書は野田大臣や、彼女とともに男女共同参画に取り組んできた小池百合子東京都知事をはじめ、山尾志桜里、辻元清美、中川智子、高井美穂、嘉田由紀子の各議員がどう生まれ育ち、どう議会で奮闘してきたかを紹介している。スキャンダルに揺れた山尾志桜里議員、さまざまなデマに貶められながらも戦い続ける辻元清美議員など、所属政党や立ち位置もバラバラな7人に共通点はない。二世議員になるべくして育てられてきた者もいない。父方の祖父が政界入りしていた野田大臣ですら、祖父の後援会に推されて県議選に出馬したのが現在のきっかけだ。
7人の中で異色なのが、大相撲の巡業あいさつで土俵に上がれなかったのを「悔しい」と言った中川智子宝塚市長と、高井美穂・徳島県議だ。高井議員は大学を卒業後、流通系企業で働いていた折に民主党の公募に応募したものの、政治経験は全くなかった。「パワフルおばさん」をキャッチフレーズにしていた中川市長は、それでも阪神淡路大震災後の救援活動など市民運動をしていたが、高井県議は運動経験もなかった。「無知というのは怖いですね」とうそぶく彼女は、3年半の政治浪人生活を経て2003年の衆院選で比例当選したが、政治用語も国会スケジュールもわからないままだった。それが理由なのか、後見人役だった仙谷由人元議員は、支援者から「何考えてるの? 何も知らないお姉ちゃん出して」と言われていたそうだ。
しかし09年に与党となった民主党の鳩山内閣で、高井議員は文部科学大臣政務官となる。そして与党の議員になった瞬間感じたのは、官僚の態度がそれまでとまるっきり違うことだったと語っている。
「日本最大のシンクタンクというのはこういうことかと思いました。1聞くと、野党時代はその分の資料しか出てこなかったのが、5くらい出てきて、厚みが全然違う。ご関心は、こっちはいかがですか、あっちはどうですかと次々にオプションが提示されて、ご丁寧な説明もついてくる」
この言葉から見えてくるのは、優秀なはずの官僚の幼稚さだ。与党だから潤沢に資料を与え、野党だからと言われたこと以上は決してやらない。これでは女性が政治に向くかどうか以前に、官僚の態度次第で仕事の出来不出来が決まってしまうのではないか。
高井議員は迷走する民主党政権の中で2012年、落選してしまう。しかし仙谷元議員は、このような言葉も残している。
「彼女が出る、というのは女性が政治をなぜやるかと言うことだと思いますがね。男性だけだと法律制定者側だけの発想から抜け出せんのではないかということですよ。男中心の社会から、女が権力統治の側に回る。辺境だからこそ物事が見えるというか、新しい価値を取り入れる勇気があると思いますな」
国政からは退いたが、高井議員は現在徳島県に尽くしている。場所は違っても約15年政治家を続けている彼女は、まさに「向いている」と言える。そう考えると政治に向く向かないは性別で決まるものではなく、投げ出さずに続ける根性のありなしなのかもしれない。
候補者男女均等法に強制力や罰則はない。あくまで「努力を求める」ものでしかないが、仙谷氏が言うところの「新しい価値観」を取り入れるためにも、女性議員を増やしていく必要があるのは事実ではないだろうか。しかし2018年になっても東京都狛江市の市長がセクハラで辞職したり、政府が「現行法令において『セクハラ罪』という罪は存在しない」との答弁書を閣議決定したりと、女性を愚弄するかの如き出来事が政治の世界で次々と起こっている。そんな中で女性が積極的に政治参画するには、まだまだ高いハードルがあるように思える。だが「普通でも物おじせず続ける気持ち」と、その普通の女性を孤立させない人間力の高い官僚がタッグを組みさえすれば、女性の政界での活躍はより期待できる。そのためにも必要な法案の立役者をはじめ、女性議員のリアルを知るにはうってつけの一冊と言えるだろう。
文=玖保樹 鈴