あなたの「国語力」は合格点? 佐藤優氏が論理的思考力の鍛え方を徹底指南
公開日:2018/7/15
いま、わたしたちの「国語力」が疑問視されている。「疑問と言っても、わたしは日本語が母語だから流暢に使いこなせますよ」との反論が出るかもしれない。しかし、この場で言いたいのはそういうことではない。ここで用いる「国語力」とは、「日本語で書かれた文章の正確な読解をベースとした、論理的思考力や表現力、批判力、判断力」という総合力だ。「国語力」のことをそう説明するのは、元外務省主任分析官であり現在は精力的に作家活動を続ける佐藤優氏だ。佐藤氏によれば、いまの日本人の多くはこの「国語力」が欠如しているのだという。AIの時代が到来するこれからに必要な「国語力」を養う必要があるとも述べている。
本稿では、「国語力」を鍛えるために書かれた『国語ゼミ AI時代を生き抜く集中講義』(佐藤 優/NHK出版)を通じて、教科書で「読む力」を養う〈基礎編〉、古典を読んで「類推する力」を養う〈応用編〉、「読む力」から「思考する力」を養う〈実践編〉と続く本書のエッセンスをお伝えしたい。ステップ式で練習問題も付属しているので、「国語力」を身につけたいと考えている人なら誰でも無理なく取り組むことができる。それではさっそく本書を垣間見てみよう。
■大人になったわたしたちが「教科書を正確に読む」ために必要なスキル
みなさんは、「…の文章を200字で要約せよ」と問われるとどのような行動をとるだろうか。大切だと思われるいくつかの部分にマーカーを引き、その部分を抜き出してうまくつなぎ合わせる、という人がきっと大半を占めるだろう。しかし、このやり方では満点解答にはならないのだそうだ。
要約を行う際に、抜き出してつなぎ合わせるだけでは、些細だが非常に重要なポイントがどうしても抜け落ちてしまう。したがって、まず重要だと思われる箇所をごっそり抜き出した後に、その些細な部分を補足して「再構成」することで、はじめて本当の意味での要約が完成するのだという。
本節で大切なもうひとつのキーワードが「敷衍(ふえん)」だ。なかなか耳慣れない言葉かもしれないが、つまるところは、わかりにくい概念などを自分の言葉にして(自分で意味の分かる表現に改めて)説明することをいう。要約するという作業をするにあたっては、敷衍の作業も同時にしなければならない。要約ができたと思っても、それを自分で理解し、説明できなければ意味がないのだ。
■「事実」「認識」「評価」を区別して考える。そうすると見えてくるのは――
本書の〈基礎編〉、〈応用編〉を終えると最後は〈実践編〉だ。〈実践編〉では佐藤氏が武蔵高等学校中学校でおこなった特別授業での実践的なトレーニングを模してチャレンジすることができる。ただ、これがなかなか難問ばかりなので、〈基礎編〉と〈応用編〉をきちんとマスターしてから取り組んでもらいたい。それでは実際に挙げられている問題をひとつ紹介しながら、「事実」「認識」「評価」について考えていこう。
「クルド人問題をどのように解決するか」
この問いに対して的確な答えを出すために必要となるのは、レベルの高い思考力であり、その思考力を用いて物事を判断するにあたって不可欠なのが「事実」「認識」「評価」の識別である。
「事実」とは、「クルド人問題」という現実に起こっている海外情勢の客観的な出来事を指し、「認識」はこうした事実に対する人それぞれのとらえ方、考え方をいう。「認識」は同じ物事でも観察する人によって異なるという点が重要だ。たとえば、クルド人問題に関して、先を急がねばならない状況にあるのか、差し当たって対処は必要ないのか、といった判断は観察者によってその認識が分かれるだろう。そして、「評価(批判)」とは認識を基に考えた適切な判断のことだ。この3要素をしっかり分けて考えたうえで、それを統合することこそが本当の意味での「思考」といえるのである。
この実践トレーニングを終えた武蔵高校中学の生徒たちからはいろいろな反響が寄せられている。武蔵中学3年(当時)の聖一郎さんが著者の佐藤氏に寄せた感想は次の通りだ。
今日からは、できるだけ多くの時間を読書に費やそうと決めた。ただ、古典文学や現実離れした小説などに関しては、ある種の抵抗がある。しかし、佐藤さんが講座の中で、「一つの本を『ゆっくり』読むことであとで膨大な読書量を導くことができる」ということをおっしゃっていた。これまでは、「本なんて時間がかかる割に、思うように情報が得られない」と考え、「読書」というものに大きな抵抗を抱いていたが、これからはこの言葉を信じ、あらゆる分野の本にさらに挑戦しなければならないと痛感した。(本書pp.207~208より)
本書を通じて「読む力」、「類推する力」、「思考力」を鍛えることで、本物の「国語力」をきっと身につけることができるだろう。
文=ムラカミ ハヤト