指揮官の“心理の揺らぎ”まで体感できる! 付録「ボード・ウォーゲーム」が話題の『歴史群像』

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公開日:2018/7/26

『歴史群像』(学研プラス)

 武将萌えする歴女が増えたり、刀剣女子(ゲーム刀剣乱舞ファンの女性たち)が日本刀業界を活性化させたり、もはや「歴史物」は女子にも人気の一大ジャンル。当然さまざまな専門誌も出ているが、中でも注目なのが、このほど通巻150号を迎えた『歴史群像』(学研プラス)だ。年に数回の特別号の付録が毎回話題となる本誌。タイトルだけ聞くと、つい「戦国時代の武将とかいかにも大河なテーマや日本史ミステリ系が中心なのでは」なんてイメージしてしまうかもしれないが、実は『歴史群像』は「戦い」をより深く、詳しく考察する“ミリタリー・戦史Magazine”なのだ。

『歴史群像』の創刊は1992年。今人気の城や兵器、戦国時代、幕末から太平洋戦争まで、ローマ軍団、ナポレオン戦争から二度の世界大戦、朝鮮戦争、ヴェトナム戦争まで、古今東西のさまざまな戦いを検証し、歴史の実相に迫ることコンセプトにしており、歴史ファン、戦史ファンの支持を得ている。そして通巻150号となる最新8月号では、特別記念号として「ドイツ陸軍 “最強の陸軍”の実像」を徹底特集している。ドイツ・ドイツ・ドイツ! なマニアック記事が炸裂する。

 まず圧巻なのが、特別付録「特製ボード・ウォーゲーム」。第二次世界大戦でのドイツ軍の攻防戦を指揮官目線で体感できるシミュレーション・ゲームで、表面が2人用のモスクワ攻防戦(1941年の秋から冬にかけて対ソ東部戦線で戦われた最初の決戦)、裏面は1人用のバルジの戦い(1944年12月16日に西部戦線のアルデンヌの森で行われたドイツ軍の冬季攻勢)となっている。

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 こうしたゲームは実際にプレイヤーになることで、戦史ノンフィクションや戦記小説を読むだけでは実感できない「決断を下す者の心理の揺らぎ」を味わうことができると世界的に人気で、アメリカでは歴史家や戦史研究家、軍の関係者がゲーム制作に関与することもあるとか。一見、初心者にはハードルが高そうにもみえるが、付属のルールブックを読んでプレイすれば、ゲームの進め方やルール、注意点は自然にマスターできるという。

 ちなみに初心者向けに可能な限りルールは簡略化してあるが、実際の戦いで勝敗を左右した要素はゲームの中にすべて織り込んであり、ボードゲーム愛好家からも大評判。付録効果か売上がぐんぐん伸びており、すでに多くのネット書店で完売になっているほどで、この手のゲームをやったことのない人も、新しい趣味として、この夏休みにチャレンジするのも面白いかもしれない。

 そして本誌をめくれば、巻頭には「ドイツ装甲戦闘車両の変遷」と「ドイツ陸軍主要歩兵携行銃器」の綴じ込み付録。続いて「鉄十字のタンクキラー」という、ドイツ軍の対戦車自走砲・駆逐戦車と突撃砲の当時のモノクロ写真をCGによるカラー彩色で蘇らせたというグラビア風企画が続く。ドイツとドイツ陸軍の歴史、ドイツ軍の作戦術など包括的かつ詳細にドイツ陸軍を徹底解剖する記事のオンパレードだ。中には「図説 36年型野戦服」なんて記事もあり、よく戦争映画に出てくるドイツ兵のイメージとなる深緑のカチッとした軍服がどのように生まれ、どんな特徴を持つのかを大追究。「写真で見る 軍服ができるまで」はつい見入ってしまう。

 その他、息抜き的な連載「再現! 軍隊グルメ 戦士の食卓」では1942年のスターリングラード攻防戦で独ソ兵士が分け合った「馬肉のタルタルステーキ」を紹介し、雑誌の定番のイベント情報も「夏だ! 海だ! 航空祭だ! 全国各地で戦国祭りだ!」とミリタリー&戦史好き向けを厳選。もちろん、ドイツ陸軍特集号とはいえ、戦国・幕末ファンや太平洋戦争関連の記事もきちんと押さえている。前者は城郭イラストレーター・香川元太郎氏の再現カラーイラストが素晴らしい「伯耆・米子城」や、幕末の水戸藩主・徳川斉昭が使っていた換字式暗号「神発文字」や龍馬暗殺、新選組に関係した密偵たちの活躍を論じる「幕末諜報戦」、後者は日本海軍のつくったジェット攻撃機「橘花」や「一等輸送艦奮戦記」などの記事も掲載されており、てんこ盛りの内容だ。新刊書籍や映画の情報ももちろん同様で、とにかくまるごと一冊「戦い」で、その徹底ぶりになんだか楽しくなってくる。

 ちなみに戦史が中心というと、どこか敬遠する方もいるかもしれない。だが「人類の歴史は戦争の歴史でもあり、そこには多くのドラマと学ぶべき教訓がある」が本誌の原点であり、独自のイラストや貴重な写真、データをふんだんに盛り込んで丁寧に作られたこれらの記事を読むことで、歴史を知ることの面白さを改めて実感できるだろう。ちなみに電子版もあるが、そちらにはボードゲームの付録はつかないのでご注意を!

文=荒井理恵