1万人にひとりが手に取ってくれればいい! デジタル時代の“ニッチブランド”戦略

ビジネス

公開日:2018/7/30

『ニッチブランド革命 デジタルマーケティング時代のヒットの法則』(山口恵市/幻冬舎)

 あなたは新しい商品を購入するとき、何を基準にそれを選んでいるだろうか。テレビCM、ネットの記事、身近な人のおすすめ、評価サイトなど…。何を買うかによっても判断基準に違いはあるだろうが、スマホが普及して以降、テレビCMなどのマス広告よりも、ネット上のレビューを参考にすることが多くなっているのではないだろうか。こうした流れが起こった結果、これまでマス広告を利用して顧客を集めていた有名ブランドの人気に陰りが見え始め、ネットのクチコミで個人の心をつかむ“ニッチブランド”という新しい潮流が生まれている――そう語るのが本書『ニッチブランド革命 デジタルマーケティング時代のヒットの法則』(山口恵市/幻冬舎)だ。本書は、ニッチブランドが台頭してきた背景の解説に始まり、ブランドを「つくる」「伝える」「売る」という観点から実践的なノウハウを指南している。

■ニッチブランドとは何か?

 ニッチブランドと聞いてもピンとこない人が多いかもしれない。ニッチブランドは、「特定の市場における少ないニーズに応えることで消費者から強い支持を得ているブランド」などと定義されている。つまり、世の中の多くの人に知られているメジャーな商品とは違い、少数のターゲットが持つ「こんな商品があったらいいのに!」という強いニーズを狙い撃ちする商品だ。

 たとえば、中堅メーカーのツインバード工業が発売した「2ドア冷凍冷蔵庫 ハーフ&ハーフ」は、一般的な冷蔵庫と違い、全体の半分が冷凍室になっている製品。これは、増加している単身世帯の「もっと冷凍スペースがほしい!」というニーズをうまくとらえ、大ヒット製品になったという。こうしたニッチブランドは、市場規模や利益率の小ささから、大企業が参入してこない商品でもあり、彼らとの競争を避けられるというメリットもある。「市場規模が小さいのに、本当に儲けがでるのだろうか?」と不安になる人がいるかもしれないが、著者によれば、1万人にひとりの支持を得られればビジネスとして成り立つという。

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■ニッチブランドの方程式「つくる」「伝える」「売る」

 本書では、ネット通販(EC)やスマホ、SNSの普及を背景に、ニッチブランドをヒットするために欠かせない3要素「つくる」「伝える」「売る」を紹介している。「つくる」は、商品を企画・開発する過程のこと。ブランドの種になる発想の生み出し方や、ストーリーを作るためのマーケティング分析のツールなどを教えてくれる。「伝える」は、製品を「買いたい」と思わせるために、その存在をターゲットへと届ける作業。その際、SNSで情報感度の高い人に働きかけたり、ライブコマースなどの新しいECのスタイルを活用し、クチコミが広まる仕組みを作り上げなくてはならない。最後の「売る」は、製品を顧客に届けるための仕組みづくり。大手ECサイトの「モール」からスタートし、成長に応じて自社サイトやリアル店舗へと広げていく流れを、具体的なサイト名なども上げながら詳述している。

 本書の特色は、今の時代に「モノを売る」ことに関して、多岐にわたるポイントが網羅されていることだ。しかもそれは、著者の特異な成功に基づく独自の方法論ではなく、さまざまな事例やデータを踏まえた、誰もが挑戦できる正攻法。本書は、今すでに小さなビジネスをやっている人はもちろんのこと、小さな会社で新しい事業を始めたい人や、これから自分のブランドを立ち上げてみようとしている人にとって、基本の1冊になるはずである。

文=中川 凌