女性作家はなぜセックスを書くのか。作家たちの性愛トークと、オススメ官能小説レビュー集
公開日:2018/7/28
「性」とは、私たちのDNAの最深部に刻み込まれたもので、自分でもコントロールができない感情をも生み出す。人間というものを真正面から見つめ、描き出していく小説家たちは、自然と「性」という部分に対峙しなければならなくなるのだ。挑まずにはいられない、といったところだろうか。
『性を書く女たち インタビューと特選小説ガイド』(いしいのりえ/青弓社)という書籍を読むと、そんな作家たちの頭の中にある「性」がかなり鮮明に見えてくる。
本書の第1部は、8人の女性作家とゲストの男性作家が、小説に込めた性愛の理想や現実とのギャップを、自身の恋愛経験とセックス経験を交えて赤裸々に語るインタビュー集だ。続く第2部は、多様な性愛観をもつ“女”たちが胸に秘める愛情や欲望、覚悟や葛藤を描き出す官能小説約60点が、著者の独自の視点でレビューされている。
■SMの関係性で、実際の主導権を握っているのはM
ドラマ化された『残花繚乱』などの著作で知られる、怪談×エロスを得意とする女性作家、岡部えつ氏。彼女の作品「紅筋の宿」では、「セックスによって男を食い殺す女」が描かれる。恨み、怨念の象徴のような女の家に旅人の男がやってきて、女がその男を取り込んでいくという物語。その中で彼女は、「女をないがしろにした男をとっちめるようなセックスを書きたかった」と語る。
そんな同作の中では、女が縛られるというSMモチーフが登場するが、精神的には女性有利といった印象を受ける。その点に関して、彼女はこう語る。
実はSMの関係性で主導権を握っているのはMのほうとはよく聞きますね。Mがどういたぶられたいかという願望のもとに、Sがいたぶっている……という構図らしいです。弱く見えるほうが実は主導権を握っている……自分の快楽のために、女が男を利用しているわけです。
■オナニーは欲求不満ではなく、幸せになるためのもの
性愛を核にSFやホラーなどさまざまなジャンルの作品を執筆する、森奈津子氏。彼女は、性表現規制は少しずつ強まってきており、版元も著者も、文句をつけられないように自主規制をする方向にいってしまうのが実につまらないと主張する。そんな状況に臆することなく「笑い」と「エロ」を併せて書くことが多い彼女はこう語る。
やっぱりセックスもオナニーもハッピーなものであってほしいなと(笑)。悪い例としては、凶悪犯罪の原因のほとんどはセックスとマネーといわれますが、どちらに向かうにせよ性的なものが人を突き動かすパワーってすごいものがあると思うんです。だから、性によって自分や相手を幸せにすることもできるわけで。私自身は幸せな作品を書きたいと思っています。
そんな彼女は、「セックスについて語る女性は多くても、オナニーについては語りたがらないのは、“欲求不満”だと誤解されるからで、そこに男女の違いがある」と指摘する。女性が性的に解放されるかどうかは相手次第という現状や、世間の偏見、国の規制への疑問を感じ、彼女は“幸せな性”を書いている。
本書のインタビューの後には、著者によるオススメ官能小説のレビューが並ぶ。普段官能に触れる機会が少ない人でも、川端康成、谷崎潤一郎といった文豪から、山田詠美、石田衣良、村山由佳など現代の人気作家まで、読んだことのある、または名前は聞いたことのあるような有名作家の作品も紹介されており、官能小説入門に打って付けだ。
人間というものを徹底的に見つめる、というものが文学の醍醐味だと筆者は思うのだが、そこで描かれる「性」は決して、単にいやらしいものではない。性描写に興味はあるものの抵抗を感じてしまう、どう楽しめばよいのか分からない、もっと奥深い性愛の世界を知りたい、そんな人にぜひすすめたい1冊だ。
文=K(稲)