2人に1人は不倫の可能性がある!? 『サイコパス』の脳科学者が「不倫をやめられない理由」を解く!
公開日:2018/7/29
政治にどんな事件が起こっていようが衆目を集める「強い」ニュースといえば、やはり不倫報道だろう。相手が誰だろうと、ひとたび発覚すればマスコミと世間が総出でバッシング祭り。度がすぎるほどに社会的制裁を受ける…のだが、それがわかっていてもなぜか「不倫」はなくならない。禁断の関係ほど燃えるとはいうものの、それだけでそんな多大なリスクを冒せるの?
このほど登場した『不倫』(中野信子/文藝春秋)は、最新の脳科学や遺伝研究など科学的な領域から、そんな不倫にまつわる疑問に答えてくれる興味深い一冊。著者は脳科学者の中野信子氏。2016年の著書『サイコパス』(文春新書)はベストセラーであり、認知科学の最先端の研究業績を一般向けにわかりやすく紹介することには定評のある人物だ。これまでにも個人の性格や生育歴、心理面から不倫の謎に挑む本はあった。だが科学的な研究結果による事実を淡々と重ねながら迫るのは画期的だろう。客観的で説得力も抜群、しかも冒頭からあっさり「不倫はなくならない!」と断言してしまうのだ。
実は最新の研究によれば、ある特定の遺伝子の変異体(バリエーション)を持つ人は、持たない人に比べ、不倫率や離婚率、未婚率が高いことがわかっているという。たとえば脳内ホルモンの「バソプレシン」(相手に対する親切心やセックスに関する情報への感受性に関係する)の活性化は、「一夫一婦型」(つまり不倫をしにくい)の性的振る舞いに関係しており、このバソプレシンがアミノ酸と結びついた「アルギニンバソプレシン」を受容する受容体「AVPR」が少ないと「乱婚型」に、つまりは不倫しやすくなるのだという。
さらに、AVPRの生成に関係する遺伝子「AVPR1A」の塩基配列の差によって、「貞淑型」と「不倫型」にわかれるのだ。ちなみに、このAVPR1Aの中にある特定の型「アリル334」を遺伝的に2つ持つ男性は、1つor持たない男性に比べて、1年以内に離婚の危機に陥るリスクが5%も高くなる(!)そうだ。
驚きなのはAVPRの貞淑型と不倫型の出現割合は5:5だということ。つまり周りを見渡せば、2人1人は一夫一婦に遺伝子レベルで向いておらず、不倫をする可能性があるわけだ。「不倫なんて許せない!」とプンプンしているあなた自身が、もしかすると体内メカニズムに不倫因子を持っていることだって大いにあり得る。
■なぜ不倫バッシングがとまらないのか?
本書ではさらに、不倫傾向を発達心理学における「愛着スタイル」から分析し、「不倫バッシングはなぜ起こるのか」について社会心理学、さらには生理学の見地から解き明かしていく。たとえば“幸せホルモン”で知られる脳内物質の「オキシトシン」の受容体の密度は、後天的に「母子愛着の度合い」で密度が変わるため、日本型の母子密着育児では他国の人々に比べてオキシトシンへの感受性が高くなる傾向にある。実はオキシトシンは他者への愛着行動を高める幸せ面の一方、愛着を抱く対象と競合する存在に対しては妬みの感情を高め、攻撃性を誘発する怖い面もある。つまりオキシトシン過多の日本社会は「妬み」を持ちやすい傾向にあり、それが過剰な不倫バッシングにもつながるとも考えられるのだ。
「私たちの脳内物質とDNAが一夫一婦制に適したものになっていないために“不倫がなくならない”のと同じく、“不倫に対するバッシング”もまた、なくなることはない」と著者。大事なのはその大前提を踏まえた上で、ちょっとクールダウンすることかも。実際、一夫多妻や多夫多妻の地域もあるし、ヨーロッパでは「婚外子」を社会が許容することで出生率も回復している。それらを「子孫を残す」ための適応戦略の結果と考えるなら、人口減少の日本もそろそろ考えどき(!?)なのかもしれない。
文=荒井理恵