「君が死ぬときは、僕も死ぬ」何度も読み返したい、切なくも美しい青春ストーリー『七月のテロメアが尽きるまで』

文芸・カルチャー

公開日:2018/7/30

『七月のテロメアが尽きるまで』(天沢夏月/KADOKAWA)

「生きていれば、いいことがある」という言葉ほど、身勝手な言葉はない。長い時間が残されている人にとっては、それは真実かもしれない。だが、わずかな時間しか残されていない人にとって、その言葉は残酷だ。しかし、身勝手だとしても、大切なあの人には生き抜いていてほしい。生きて抜いて、自分のそばにいてほしい。天沢夏月氏著『七月のテロメアが尽きるまで』(KADOKAWA)は、そんな約束を交わす少年と少女の、切なくも美しい青春ストーリーだ。

 天沢夏月氏といえば、2012年10月、投稿作「サマー・ランサー」で第19回電撃小説大賞・選考委員奨励賞を受賞したことで知られる作家。この作家の青春小説ほど、青春時代の胸の痛みを思い出させてくれるものはないのではないか。少女に襲いかかる避けようのない病と、そんな彼女を献身的に支え続ける少年。2人の切ない日々からどうして目を離すことができるだろうか。

 主人公は、過去の出来事をきっかけに人付き合いを避けながら生きてきた高校生・内村秀。彼は、ある日いつもクラスの中心にいる飯山直佳が落としたUSBメモリを拾う。その中身に入っていたのは、遺書。やがて秀は直佳が進行性の記憶障害を患い、自殺を願っていることを知る。誰とも関わりたくはなかったのに、どうしてだが、直佳とは関わらずにはいられない。少しずつ壊れていく直佳と、秀は約束を交わす。

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「君が死ぬときは、僕も死ぬ。それが嫌なら君は生き続けろ」
「……内村くん、すごく馬鹿なこと言ってる自覚は?」

 二人の結末を見届けた時、あなたはきっとこの作品を読み返したくなる。この作品は、二度読みすると、一度目とは違った読み方ができる不思議な物語。二人を待ち受ける運命はとても悲しいものだが、この物語には、救いと希望があり、爽やかな読後感がある。

 病に冒されながらも、直佳は明るく振る舞い続ける。そんな姿がなんと切ないことか。秀との待ち合わせを忘れてしまったり、同じ話を何度も繰り返したり、さらには、クラスメイトのことさえ思い出せなくなったり…。確実に病に蝕まれていく彼女の姿を見つめる中で、彼は、自身が人付き合いを避けるに至った出来事を思い出す。心に渦巻く葛藤や後悔。だが、どうしてだろう。直佳と秀が生み出す世界は、透き通っている。そんな透明感にどうしようもなく読者は惹かれてしまう。

 記憶障害や薬の副作用に苦しむ彼女に生きてほしいと願うことは酷なのか。しかし、それが自己満足であるとしても、秀は、彼女に、生きてほしいと強く願う。悲しくも、美しいこの物語は、暑い日々が続く今の季節にぴったりの爽やかな作品。ぜひともあなたもこの本をもとに考えてみてほしい。大切な人のために、あなたは何ができるだろうか。あなたならどうするのか、と。

文=アサトーミナミ