「よく頑張ったね」…それ、「勉強コンプレックス」の元かも!?
更新日:2018/8/20
真夏。小学生から高校生まで、大半は夏休みを満喫中か。しかし、受験生ともなると話は別。夏休み返上で通塾している人もいるだろう。いや、通わなくても通信でのリアルタイム指導や、いつでも視聴できる映像講座アプリで学習できる時代。このように学習環境も多様化すると、今の勉強方法で確実に実力を養えているのかは、気になるところ。
『勉強』(秋山夕日/南々社)は、集団塾と個別指導での講師、IT企業でのPC教材やアプリ開発、フリーの家庭教師など、さまざまなスタイルで15年間、教育産業に携わってきた著者の集大成として、学習環境の見極め方や長期・中期目標の設定のポイント、そして「何をどのように勉強するか」と題し、覚え方やミスの減らし方、教科別の勉強のアドバイスまでをまとめた1冊である。
まず、著者が塾講師を始めてすぐに気になったことは「生徒の勉強コンプレックス」だったそうだ。これには周囲の褒め方が大きく関わっていて、勉強を“頑張ったこと”に焦点を当て褒めることは、かえってコンプレックスを助長するらしい。「でも頑張ったね」「よく頑張ったね」は、親もつい、口にしてしまいがちな言葉だが、「でも」が何度か連続すれば、頑張り続けてもよい点数がとれないと思い込み、勉強コンプレックスを持つようになるという。また「よく」は一見いいことに思えるのだが、成績がいいのは頑張り続けているという「真面目さ」が際立ってしまう。本来、勉強が得意だと胸を張っていいところなのだが、本人は真面目さがカバーしているだけ、と解釈し、これまた勉強コンプレックスを持ってしまうという。もったいない。著者は、“生徒の勉強そのもの”に着目するよう呼びかける。
生徒の保護者の多くはテストの点数だけを見て生徒を褒めたり叱ったりするのですが、これは生徒の勉強コンプレックスを助長し、「生徒の勉強そのものを褒める」教師の足を引っ張るだけなので、やめた方がいいと思います。生徒のために保護者ができることは(略)「生徒の勉強そのものを褒める」教師を探すことです。そのような要求に応えるのがプロの教師ですし、要求されなくてもそれを自然に行えるのが一流のプロです。
また、集団授業では「生徒のための準備」を授業時間の倍の時間をかけていたという。その準備とは、受講する生徒全員の学力を個別に把握し、適した問題選びをするだけには留まらず、どの生徒に当てて、どんな反応ややりとりが仮定できるか、他の生徒にとっても学びとなるかまでシミュレーションしたという。
授業をしながら生徒一人ひとりの表情を観察して生徒が授業に付いて来ているかどうかを確認し、それによって授業のペースに緩急をつけるようにしていました。これはかなり疲れる作業で、先ほど述べたようなレベルでの授業の準備ができていないとまず不可能です。(略)僕は授業に出席している生徒の数として、1名から約200名までの数を経験しましたが、今述べたような観察は生徒数20名までが限界でした。この数は生徒・保護者が集団授業の質を考えるうえで一つの目安になると思います。
他にも「物事を覚えるとは」の項目では、著者が英和辞典や数学辞典などいろいろなジャンルの辞書を愛読してきたことを例に出して、やみくもに暗記するのではなく、興味を持ち学習することで「与えられた情報の中で繰り返し出てきたことが自然に知識になる」と論じている。
著者の秋山氏は、ラ・サール中高から東大を卒業。「相手にとって難しいことを、相手に分かりやすく説明する力」が自分にあるかもしれないと、塾講師を始めた。早い時期からの勉強コンプレックスを阻止すべく、年々、教える学年も拡大。最終的には小学生から浪人生にいたるまで、ほぼ全教科を指導してきた。現在は詩人、作家であり、数理社会学会会員。博士論文を執筆中だ。
勉強することに非常にまっとうな好奇心を持ち続け、生徒に対しても創意工夫を怠らずに学びの本質に導く様子から、著者の熱意にあふれた人柄が伝わってくる。学生、保護者には成績向上のヒントがつかめる本として、さらに教育に関係する人にも一読をおすすめしたい。
文=小林みさえ