「あ、もう定時なんで帰ります」ゆとり新入社員vs.先輩やくざの仁義なき抗争が面白い!
公開日:2018/8/3
最初のゆとり世代が社会に出て、もう10年近くになる。
電話に出ない、指示待ち人間、飲み会は断る……など、散々な言われようだったゆとりだが、彼らとて悪いところばかりではない。
人目を気にしないマイペースな性格や、効率重視で無駄を嫌うところ、ITスキルの高さなど、うらやましいと思ったことはないだろうか?
そんなゆとりの一長一短を、ユーモアたっぷりに描いたマンガがある。早坂啓吾の『ゆとりやくざ』(集英社)だ。グランドジャンプの大人気作品である本書は、ゆとり世代の市後(いちご)・23歳が主人公。彼はなんと、武闘派暴力団「過獣組」に入社する。
スマホ・SNSを使いこなし、インスタ映えを気にする、いかなる時もマイペースな市後が、先輩やくざたちを煙に巻く様子は忍びわらいが止まらない。
市後は、就活に50社以上連敗中だったところを、ある理由から組長にスカウトされて、軽い気持ちで過獣組に入社。
初日から、「おざーす 市後でーす おなしゃす」と挨拶し、過獣組の幹部・武堂に怒鳴られる。
それどころか、電話に出ろと言われても「いや…武堂さんのほうが近いでしょ」、若い衆に「ぶっ殺すぞ!?」とまで脅されても「それパワハラですよ 労働組合に訴えましょうか」と言い返す徹底ぶりだ。
また、上司の飲みの誘いは、ゆとりらしく、お風呂やご飯やネットを見ることを理由に断る。それだけではなく、ゼロを2つ間違えて発注ミスした“ドス”は、メルカリで売却。インスタで「いいね」が殺到しそうという理由で、若い衆たちと「札束風呂」の写真を撮影し、アップしようとして、幹部の武堂に「サツに捕まる」と怒られているのである……!
だが、市後はただの「嫌な奴」では決してない。生まれてからずっと不況で、幼い頃両親が離婚し、貧しい生活を送ってきた彼は、贅沢もしたことがない。
市後は、サラ金に200万借りてバックレた男には、自分の経験から、実家に帰って真面目に働くように説得し、「ゆとりの考え方も捨てたモンじゃない」と武堂に実感させたこともある。今も将来年金がもらえないことを心配し、堅実に生きている。
何かと昔気質の幹部・武堂にとっては、欠勤連絡はLINEで、軽い怪我をして労災申請、定時になったら即帰宅……といった、市後の行動は理解の範疇を超えているようだ。
しかし、そもそも常識が通用しないであろう暴力団で、やくざたちにツッコミをいれさせる市後の存在は、想像の斜め上を行くシュールさと面白さがある。
職場は違えど、武堂のような「茶淹れるのは新人の仕事」と発言する上司や、どんなタイミングであろうと「定時なんで帰ります」と言う新人は、どの組織にも存在するように思う。ゆとり世代の方も、ゆとり世代の対応に苦慮している方も、きっと「あるある」と頷きながら、この仁義なき戦いを楽しめるはずだ。ぜひ読んでみてほしい。
文=さゆ