おかしな主張を10秒で見破る4つのポイント。騙されないために必要なのは「瞬発力」!
公開日:2018/8/2
人と話をしていて「あれ? なにか変だけど…」とモヤモヤが残ることはないだろうか。その違和感や疑問が解消されなければ、話が終わっても何か納得できない。プライベートな関係だけでなく、ビジネスの現場、例えば営業のセールストークを聞く場面や上司との話し合いでは、納得できないまま巻き込まれてしまうことの負の影響も大きいのではないだろうか。
優秀なビジネスパーソンの条件は、超独創的なアイデアとかカリスマ的なリーダーシップがあるとかだけではないそうだ。むしろ、日常のさまざまな場面で、正しい主張とおかしな主張をしっかり見分け、適切な意思決定や指示出しの判断ができることが非常に重要だ。
そういった主張の是か非かを瞬時に見破るのは簡単ではないが、そのパターンは無限ではない。いくつかの典型的なパターンを理解しておくと、おかしな主張の多くは見破ることができるようになるというのが本書『ビジネスで騙されないための論理思考』(グロービス:著、嶋田毅:執筆/PHP研究所)だ。本書では、“おかしな主張”のよくあるパターンを4つに分類して紹介するとともに、そうした主張に騙されないための心構えが紹介されている。
■おかしな主張の4パターンを学んで、例文を解いてみよう
“おかしな主張”の典型的な4パターンとは以下の通りだ。
(1)論点がずれている
(2)論理展開が間違っている
(3)根拠・前提が間違っている
(4)根拠が偏っている(バランスが悪い)
上記を踏まえて、次の例文は果たして正しいのか、もしおかしい場合はどこがおかしいのか考えてみてほしい。
例文A「日本は地震国だ。ビジネスが止まると大きな損害を受ける。平時からBCP(事業継続計画)にもっとお金をかけるべきである」
パターン(2)の「理論展開が間違っている」とはどういうことだろうか。理論展開の方法には、大きく分けて「演繹法」と「帰納法」の2つがある。演繹法は、三段論法だ。すなわち、大前提(ルール、一般論)があり、小前提(ケース、観察事項)があって、三段目で結論に至るという論理展開だ。シンプルな例では、「人間はいつか死ぬ。ソクラテスは人間である。だからソクラテスはいつか死ぬ」となる。
だが、演繹法の典型的な落とし穴は「省略」にある。大前提を省略する、あるいは大前提と小前提のどちらかを少し飛ばして論理展開するケースが多い。これが実は、まさに演繹的な論理展開が説得力を欠いたり、ミスコミュニケーションが生じてしまったりする原因となるという。
この例文Aは一見論理的な流れがあるが、「平時からBCPにもっとお金をかけるべきである」という結論に至るまでにやや飛躍感がある。もし平時からお金を掛け過ぎてしまったら、費用対効果が合わなくなる可能性もあるだろう。企業である以上、費用対効果も意識すべき重要事項であるという前提が抜けていると言える。
では次の例文について考えてほしい。
例文B「このXの事業は潜在市場規模が大きい。成長性も高い。自社の事業とシナジー効果が効く。資金的な目途もつく。Xの事業に参入すべきだ」
パターン(4)の「偏った根拠」とは、主張を支える根拠そのものがバランスを欠いていることだ。人間は、自分が一旦「こうだ」と思ってしまうと、その思いを裏づけるのに都合のよい情報だけを集めてしまい、他の情報を省いてしまう傾向がある。
この例文Bも一見論理が通っているように見えるが、マイナス要因が検討されていないことに気がつくかどうかが重要だ。結論ありきで、都合のよい情報だけを集めて論理展開をすると、誤った意思決定をしてしまう。
■パターンを身につけて習慣化すると、相手のウソが瞬時に見抜ける
以上のように、ちょっとしたポイントを意識するだけでも、見えていなかった問題点がわかるようになる。この4パターンの紹介以外にも「数字の罠に気をつける」という章があるが、データの例示は使いようによって特に説得力を持つため、責任ある判断をこなさなければならない社会人にとっては必見であろう。
論理的思考やロジカルシンキングを説く書籍は数々あるが、本書のキーワードは「瞬発力」だ。瞬時に「これは何かおかしい」と気がつく瞬発力、さらに適切に相手に対して切り返す瞬発力が、これからの時代には強く求められるからだ。社会人としての新人からベテランビジネスパーソン、あるいは口げんかで相手を論破してやりたいと考えている人まで、参考になる1冊である。
文=高橋輝実