この金融商品のココが危ない! 経済のプロが教える資産防衛術

ビジネス

公開日:2018/8/2

『「階級格差」時代の資産防衛術』(須田慎一郎/イースト・プレス)

 ニュースでは株価が上がり経済が好転していると言われるのに、庶民の肌感覚としてはなかなか景気のよさを実感できない。そんな先行きの見えない状況のなか、資産を増やそうとすれば、数多くの金融商品とそれに関わる情報のなかから、正しいものを選んで投資していくことが必要になる。そんな難しい選択の手助けとして活用してもらいたいのが、『「階級格差」時代の資産防衛術』(須田慎一郎/イースト・プレス)だ。

 著者の須田慎一郎氏は、これまでの著書を通じて数々のスクープを連発してきた経済ジャーナリスト。テレビやラジオにも多く出演しているので、ご存じの方も多いだろう。本書では須田氏が「危ない金融商品」の落とし穴をくわしく解説。老後安定して暮らす資金を得るために必要な知識を教えてくれる。

■1%の富裕層が残り99%を支配する。日本もアメリカ型の社会に!?

 本書は前半で、日本の経済状況について解説している。皇居のすぐ側に位置する東京都千代田区の番町という一帯を例に引き、次のように述べる。

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つまり、ここから想定されるのは、日本ではピラミッド型の階級社会が厳然としてあり、しかもそれが固定化されてしまっているということです。そして、つねに下流階級(貧困層)への転落リスクと隣り合わせにある中流階級の人では、どんなに成功しても決してたどり着くことのできないハイクラスのトップ層が存在しているのです

 このハイクラス層が、ヒルズ族と称されてきた層などと異なるのは、金銭的に裕福なだけではなく、家の格式や人脈などの裏づけを持っていることだという。私たち庶民は、こうした超富裕層の存在を認め、自分自身はアウトサイダーであることを自覚したうえで、今より下流へ転落してしまわないよう自分の資産を守る、あるいは増やすための自衛手段をとる必要があるのだ。そのタイミングは早ければ早いほどよく、自衛手段をとっておかなければ、将来後悔することになると指摘している。

 その裏づけとして展開される、現在の経済政策についての解説も興味深い。2016年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」を受け、同年12月に配偶者控除を受けられる年収の上限が103万円から150万円に引き上げられたことは注目されたが、その背景には一体どんなねらいがあったのだろうか? 「一億総活躍社会=一億総労働者社会に通じる」と解く須田氏の論を、ぜひ本書で知ってもらいたい。

■仮想通貨マーケットは、知識があれば儲けられる

 本書は「仮想通貨」「投資商品」「銀行」「年金、保険商品」などの金融商品について、それぞれ見分け方や危ないケースを解説する。

 ビットコインなどの仮想通貨の項で興味深いのは、既存の金融システムとの「決済・送金」システムの違いだ。リアルマネーをやりとりする既存の金融システムでは、巨大なホストコンピューターで、金融機関の間で行われる決済・送金を集中計算している。そのため決済・送金に割高な手数料がかかってしまうのを避けられないのだ。

 それに対して仮想通貨で使われるブロックチェーン技術は、ユーザー同士のパソコン上のフォルダを随時ダイレクトでつなげ、データを分散管理する「P2P(Peer to Peer)」が高度化したもの。決済時の記録台帳を管理する際にすべての段階でコストがかかっていたものを、ブロックチェーン技術が一気に解消したのが、仮想通貨の強みなのだ。そして「仮想通貨が世界的なレベルで普及していく流れは、もう変わりません」と予測している。

仮想通貨で儲けられる人は仮想通貨取引所について熟知しています。たとえば、ビットコイン(仮想通貨の一種)ひとつ取ってみても取引所ごとにレートが違います。富裕層の目ざとい人たちは仮想通貨を安い取引所で買い、高い取引所で売っています。(中略)仮想通貨マーケットは公平公正に成り立っているのではなく、知識さえあれば一方的に儲けることができるマーケットだったのです

 著者の指摘は的確に仮想通貨マーケットの状況を表し、そこで勝ち組になった人々の考えを読み取ったものといえるだろう。著者の鋭い分析は、資金運用の大きな助けになるに違いない。

 経済状況が不安ななか、自分の老後のための資産を増やしたいと考えることは自然だ。そのとき失敗せずに資産運用するカギは、まず金融システムの仕組みを正しく理解することにある。須田氏は、あふれる程の情報は「玉石混淆、というより、石のほうが多いくらい」と語る。さて、あなたが今検討しているものは、果たして石なのか、玉なのか? 正しく判断するために、ぜひこの1冊を役立ててもらいたい。

文=井上淳