20・30代は「逃げられない世代」―“先送り”でしのいできた日本にどう向き合うか

社会

公開日:2018/8/7

『逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界(新潮新書)』(宇佐美 典也/新潮社)

 人口減少社会の中、働き盛りの世代が注目されている。これまで、様々なことが「先送り」されてきた行政システムのしわ寄せが一気にのしかかるのが、この世代だとされているからだ。

「次世代に負の遺産を残さない」と言いながら、様々な事柄が「先送り」されてきた国に対して、私たちはもどかしい気持ちを通り越して、半ば諦めの境地に立たされているかもしれない。

『逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界(新潮新書)』(宇佐美 典也/新潮社)は、日本型「先送り」システムが続く理由を、ごく簡単に次のように説明している。

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日本の政治は基本的には「目の前の選挙への対策を求める政治家と、そうした政治家の要請を満たしつつ対症療法的政策を実行して問題を先送りする官僚」という2~3年間の「先送りの連鎖」が行われる構造になっています。

 構造的にメスを入れないと、この先送り体質は改善しない。しかしながら、「先送り」はそもそも絶対的な悪ではない、と本書は述べる。

 経済に活力がある環境では、先送りした時間の中で、民間側が社会のダイナミズムにのって思いもよらない形で問題を解決してしまうことが多々あるからだ、という。官僚は、これに期待する面もあり、積極的に「きちんと先送り」をしてきた。そして、日本はこれまで、民間側のミラクルによって諸問題が解決されてきた。

 しかし、本書は警鐘を鳴らす。経済成長が停滞し、人口が減少する社会にあっては、かつては最良の政策とすらいえた「先送り」では立ち行かなくなっていく。先送りした問題が拡大し続け、民間側の力でカバーできる範囲を超えるからだ。

「団塊ジュニア世代が寿命を迎えるまでの20年間はついに日本社会が先送りしてきた課題から逃げられなくなる」

 本書はこう予言している。

 社会保障制度をはじめ、先送りしてきた諸々の課題があらわになり、社会変革が迫られるようになる。このとき、変革の担い手の中心となるのが、20・30代(1979~98年生まれの世代)なのだ。本書は「逃げられない世代」と命名している。

この世代は自らの身を削りながら団塊ジュニア世代の老後を20年間支えていき、他方で次世代に問題を先送りしない社会保障システムを再構築し、なおかつ日本の安全保障のあり方も外交的に見直していく必要に迫られる

 では、「逃げられない世代」は、社会システムを変えるために、何をすればよいのか。本書はいくつか案を示しているが、その一つに「生き方を見直すこと」に言及している。具体的には、「自分が何歳まで生きて、どのような人生を送っていくのか」について、新しい概念で考えてみる、ということだ。

 すでに世間で散々言われている予測だが、年金の受給開始年齢は引き上げられるだろう。これまで、人生のステップは「教育→労働→引退」という3段階モデルで考えられてきた。本書は、これを「教育→労働→自活→引退」の4段階モデルで考える必要性をうたっている。新しい「自活」の段階は、65~74歳の前期高齢者にあたる期間になるとして、ここをどう生きていくのか。本書はヒントをいくつか示している。

 本書は意外にも、巻末で「日本の未来は明るい」と言い切っている。「逃げられない世代」だけでなく、日本の将来を憂う多くの人に一読願いたい。

文=ルートつつみ