子育てに悩む親必見! 「刺激に敏感」「変化が苦手」…話題の“HSC”セミナーの内容を公開!
公開日:2018/8/4
『HSCの子育てハッピーアドバイス』(明橋大二:著、太田知子:イラスト/1万年堂出版)刊行を記念して、「『育てにくい子』と悩んでいませんか? 今、話題の“HSC”が丸ごと学べる特別セミナー」が開催されました。HSC(= Highly Sensitive Child)は生まれつきひといちばい敏感な感覚を持っている子どものこと。著者の明橋大二先生による特別講演でHSCの概要を押さえたあとは、育児漫画家の高野優さんと明橋先生による対談。会場にはHSCの子を持つ親御さん、あるいはご自身が該当すると思われる方も多く、ざっくばらんなお2人の対話に真剣に耳を傾けていました。本稿ではイベントの一部をお届けします。
■あの時、HSCを知っていたら…!
高野優さん(以下、高野):実はHSCのチェックリストを実際にやってみて、当てはまることが多くて驚いたんです。中でも私はHSS*で、好奇心が強すぎて親からうっとうしがられて育ってきたんですが、 そういうことの筋道が通った気がして、なんでこの本が40年前になかったんだろうって(笑)。それで思い出したのが、子どもの頃に先生にいつも「優ちゃん、昼休みは特殊学級(現在の特別支援学級)で遊んできて」と頼まれていたことで。本当はみんなと校庭で遊びたいのに、特殊学級に毎日行ってたんです。これって、私がHSCだったからなのかな、と。
注*HSS:刺激を求めるタイプ
明橋大二先生(以下、明橋):HSCは共感力が高かったり、正義感が強かったりすることから「面倒見の良い子」と思われることもありますね。私の患者さんは、やんちゃな子とずっと隣同士にさせられてお世話を頼まれて、そのうち疲れて不登校になってしまいました。
高野:先生たちが知っていてくれたらよかったのに。あと、私のことではないのですが、娘の合宿にお手伝いにいったときに、お弁当を食べられなくて苦しんでいるお子さんがいて。お母さんの話では「はと麦茶を飲めるけど麦茶は飲めない」「家で炊く柔らかめのご飯は大丈夫だけど、コンビニ弁当は食べられない」と。コーチや監督に「ワガママ」と言われ、誰かに相談しても「神経質」と言われ、これは間違いなくHSCの特徴ですよね。
明橋:そうですね。味覚に敏感で、隠し味もみんな当ててしまったり、給食の時に少し変なにおいがしただけで食べられなくなったりという子もいます。知り合いに、同じ飲料でもどこの工場で作られたか水の違いで全部当てる人もいますよ(笑)。
高野:周りがHSCを知っていたら、その時も何かできたかもしれませんよね。あと、私はママ友などの友達から相談されることが多いんですが、そういうときって一番いい道に導きたいと思うものの、なぜか一緒になってやつれちゃうんです。謎だったんですが、HSCの「共感しやすくて疲れる」というのを知っていたら、少し境界線がひけたかもしれません。
明橋:そうかもしれません。相手の気持ちがわかるので、たとえば不登校の子とも仲良くなれたりして、その子と話ができるのは唯一その子だけみたいなことにもなりやすいですね。それで先生からプリントもっていってくれとか、学校に誘ってくれとか頼まれて疲れちゃう。やはりこういう時は、「境界線」をきちんとひくことがすごく大事になります。HSCは他人に巻き込まれやすく、自分を後回しにして他人に尽くしてしまうところがありますから。
高野:じゃあHSCの場合、すごく疲れて家に帰ってきてるわけですね。
明橋:よく思春期は家に帰ってきても無愛想で、しゃべりもしないし、返事しても「うざい」くらいしか言わないとかありますけど、そういうのって一見、親に腹を立てているように見えて、本当はどの子も学校で散々気を遣って疲れきっているからというのもあると思います。家に帰ってまで親としゃべりたくないわけですよ。特にHSCの子にとってはそうで、学校は相当に疲れる場所なのだと知っておく必要があります。
■学校の先生に知ってほしいHSCのこと
高野:本当にHSCを知っていればってことが多くて。こうして本が出て、ご一緒にお話したりする機会が重なっていけば、おそらく3年後5年後にはADHDみたいに浸透していくかもしれませんね。
明橋:そうですね。特に学校や保育園の先生にもっと知ってもらいたいんです。理解されないことで子どもの「自己肯定感」が低くなることが少なくないですから。実は今回の本には先生のための10のアドバイスをいれてあります。ここはコピーして配っていただいてかまわないので、活用してほしいんですよ。
高野:親から「うちの子は怒られるとダメなのでしからないでくれ」って伝えるのって、「モンスターペアレントだ」ってなりそうですもんね。
明橋:だから言葉で伝えずに、これを「資料」として渡してください。親が直接お願いすると、どうしても自分の子ばかり庇うように思われることもありますから、「実はHSCというのがあってここに資料があります」と渡せばいい。漫画なら先生も読んでくれるでしょうし、先生が思い当たることに自分で気がついてくれるのが大事なんです。
高野:あと考えられるのは兄弟の場合。たとえば複数の兄弟の中のひとりだけがHSC の場合って、他の子には怒るのにその子には怒らないとかになってしまうと不満が溜まりそうですよね。
明橋:怒鳴るのがイヤなのは別にHSC の子に限りません。だったらみんなにしなければいいんですよ。HSCにとって必要なことは、実は他の子にとっても必要なこと。なにも「HSCだけを特別扱いしろ」ということではなくて、それをきっかけに他の子との関わりを考えていけばいいと思います。HSCは、学校などの場では「炭鉱のカナリア」(有毒ガスの発生をカナリアが倒れることで感知したことにちなむ)みたいな存在で、雰囲気の悪さや気持ちの荒みをすぐにキャッチして教えてくれる。社会においても暴力的なことや悲劇的なことはよくないと教えてくれる。だから人類が幸せになるためには、敏感な人がもっと活躍すべきだし、世の中にとって必要な人材だと思います。
高野:本に「HSCを育てている親御さんはとても幸せだ」とも書かれていましたね。ただ現実の大変さの中では、なかなか納得できない面もありそうで…。
明橋:先日、私のところに相談に来ている親御さんが、「子どもが不登校になったおかげでいろんなことに気づけたし、いろんな人に出会えた。すごく感謝してる」と言っていました。それは不登校に限らないと思います。HSCは普段気がつかなかったこと、たとえば哲学的なことや芸術的なことをズバッと言ったり、考えさせてくれたりする存在です。子育てを大変に思うことは多いかもしれないですが、それによって学ばされることが多いというのも忘れないでください。
高野:先生、先ほどからうなずきすぎて首が痛いです…(笑)。本当にそうですね。ありがとうございました。
そして、イベントは会場からの質問タイムへ。実際にHSCの悩みを抱えるお母さんたちの涙ながらの切実な質問に、じっくり耳を傾ける明橋先生。まだまだ知られていないHSCだけに、参考になるアドバイスがあるかもしれません。
「4年生の娘は服へのこだわりが激しく、ずっと同じ服を着たがり、洗濯もいやがり困っています。どう声かけしたら良いでしょうか?」
基本的には無理強いはできないですし、させてくれませんよね。やっぱり「これがいい」とお子さんが主張するのであれば、同じものの繰り返しでも仕方ないと思います。そうしていくことで、娘さんは「親は私の気持ちをわかってくれる、私の感覚を尊重してくれる」ということが確認できて安心し、逆にちょっと試してみる気になることもあるでしょう。いずれ年頃になって、彼氏から何か言われたりでもしたら変わって来るかもしれませんし。
「娘が保育園に行けなくなってしまい1〜3歳まで毎年園を変わりました。周りからは理解されず、とても苦しい思いをしました。どうやったら周りが理解してくれるようになるでしょう?」
私の患者さんにも何度も転園される方がいますが、その理由は「子ども自身がつらいから」ですね。敏感な子の気持ちに寄り添うと無理強いできず、時に一般には理解できない結果になることもあります。でも、それは決して育て方のせいではないし、親御さんのせいではない。ぜひ覚えておいてほしいのは、親の関わりは子どもの症状の「原因」ではなく「結果」だということです。でも、まだまだ親が原因と考えてしまう人が多く、こうして苦しむ方が多い。今回HSCの本を出せたことはスタートで、これから知識が広がっていくことで救われる親子がたくさんいるということを、社会にもぜひ知ってほしいと思っています。
「保育園の途中から子どもが不登校で、春に入学した小学校にもまだ行けていません。この先、人との関わりが家族以外にないのが不安です」
いやだという子を無理やり行かせようとすると、「親さえも自分の辛さを理解してくれないのか」となり、いずれ「死にたい」とか「生まれてこなければよかった」と言い出すこともあります。学校は大事ではありますが、死ぬような思いまでして通うところでは決してない。いじめで自殺する子が何人もいますが、その子たちは学校に行かなければ死ななくてもよかった子たちなんです。よく「人と関わることが大事」と言われますが、人に関わることで不幸になるならば別に関わらなくてもいいと思います。仕事にしても、ネットを介して仕事をするスタイルもあれば、トラック運転手だって大半はひとりだし、なにもコミュニケーションができないと仕事ができないわけではない。目の前でお子さんが苦しんでいるのはわかりますよね。ならば親が腹を括って「家にずっといていいよ」と言ってください。そのうち退屈だとか外に行きたいとなるかもしれません。
「娘が典型的なHSSです。彼氏ができたりすると、相手の態度にものすごく動揺して過呼吸を起こしてしまうほどになり、この先が心配です」
敏感なお子さんは対人関係でしんどい思いをすることが多いのですが、生きていく上では避けられないことでもあります。大事なことは、お子さん自身が「上手な気持ちの処理の仕方」を覚えておくこと。ひとつは「境界線」をひくこと。英語では「バウンダリー」といいますが、バウンダリーを学ぶことで、コントロールできるようにもなります。やはりお子さん自身が「自分の課題」としてとらえていくことが大切ですね。
「小6の娘が不登校です。ちょっと行く気になっていても、同じく不登校の子との電話に影響されてやめてしまいます。『境界線』が大事といってもまだ11歳で、どう教えたらいいのか…」
そういう場合は、親は「大丈夫って言ってたのになんで?」と反応するのではなく、「本当は不安だったんだよね」と子どもの気持ちに寄り添ったほうがいいですね。その上でどうするかは、子どもの意思で決めていくことです。「境界線」というと難しいですが、「他人は他人、自分は自分」ということ。「人の気持ちを全部受け止めなくていいんだよ」と話をしていけば、少しずつ理解できるでしょう。なお、この本は小学校高学年なら読めますから、ぜひ読ませてみてください。子どものときからこういうことを知って、自分のことを「肯定」して生きていってもらいたいですから。
文=荒井理恵