「俺、いくつに見える?」の“糞やりとり”にもお世辞で返答。清野とおるの居酒屋攻略術

マンガ

更新日:2018/8/6

『Love&Peace~清野流・居酒屋&スナック攻略術~ 2』(清野とおる/白泉社)

『東京都北区赤羽』で登場した居酒屋「ちから」、タイ料理居酒屋「ワニダ」をはじめ、いろんな意味でヤバい酒場に入っては、それをマンガにしてきたマンガ家・清野とおる。その作品の面白さは、店主や常連をただ観察するだけでなく、いつの間にか彼らと仲良くなって、普通の一見さんは見られない・聞けないエピソードを数多く引き出している点にある。

 そんな清野さんが、「自分ね、ただ楽しく呑みに行ってる訳じゃないんですよ!!! 色んな術を駆使して、仲良くなれる方向に頑張って事を運ばせてきたんですよ!!!」と冒頭で豪語する新刊が『Love&Peace~清野流・居酒屋&スナック攻略術~ 2』(清野とおる/白泉社)だ。

 そこで紹介されているテクニックは「確かに!」と納得するものばかり。たとえば「個人経営の店では、店主が忙しそうなときは注文しない」などは基礎中の基礎のマナー。“素敵な酒飲み”と言われている人は、ごく自然と実践していることだろう。

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 一方で、「使いたい調味料が隣の客の前にある場合は、『すみません、七味お借りしますね』と断ってから取り、『ありがとうございました』と元の位置に戻す」など、声を出す必要があるテクニックになると、実践できている人は減りそう。「店主が至近距離にいる場合は、『美味しい。コレ美味しいなぁ』と声に出してつぶやく」などのテクニックも、何か恥ずかしくてできない……という人が多いはずだ。

あざとさ満点の顔立ちで「美味しいなぁ」とつぶやく清野さん

 しかし、「美味しい」と言われれば店主は絶対に喜ぶ。調味料を戻すときに「ありがとうございました」と言えば、隣の客は「この人、いい人そうだな」と思うことだろう。一癖も二癖もある酒場の人々と交流し、その破天荒な様子を描いてきた清野とおるの潜入ルポは、こういった小さな努力の積み重ねで成り立っているのだ!

 そして清野さんは、このようなテクを身に付けた上で、あえての掟破りもする。それが「忙しいときにあえて注文の術」。店主が忙しそうなときに「すみません、手が空いたら注文いいですか?」と聞くことで、空気を読んで気を使っていることを店主に感じてもらう……というテクニックだ。確かに好感を持ってもらえそう!

 また「注文重ねの術」も面白い。これは、居酒屋で隣のおじさんの注文直後に同じものを頼み、「すみません、おいしそうだったので」と会話の糸口にする……というテクニックだ。そして清野さんは「この術の利点は、自分と同じものをマネされたことで、オヤジのセンスを肯定したことになり、センスを肯定したということは、すなわちオヤジの人生を肯定したことにもなる」とも述べている。うーん、そこまで裏側を書かれると「清野さん、あざとい!」とも感じてしまう。

「僕も同じの!」と注文して話しかけるだけで、おじさんはこんなに喜ぶ!?

 このマンガを読んでいて思うのは、清野さんは目の前の店主やお客さんに驚くほどの気遣いをしながら酒を呑んでいるということ。そして、「俺……いくつに見える?」「え~。いくつだろう~」という初対面でありがちな会話を“糞やりとり”と罵倒しつつも、「う~ん。50代半ば…。いや、50代前半くらいですかね?」ときちんとお世辞も言える人物なのだ。

テラフォーマーみたいなおじさんにもお世辞は欠かさない!

 干からびた昆虫みたいなおじさんの描写には悪意も感じるが、こんな“糞やりとり”も面白がれるからこそ、清野さんはどこでも楽しく酒を飲めるのだろう。そして清野さんは「飲みの場では店主と常連が神で、自分なんぞは『糞』にすぎない」とも述べている。

うんこを頭にかぶる清野さん

 謙虚なのか、あざといのか。悪意のかたまりなのか、いい人なのか、読めば読むほど分からない。清野とおるのマンガには魅力的な登場人物が数多く登場するが、いちばん底知れぬ魅力を持っているのは作者本人なのかもしれない。

文=古澤誠一郎