加熱する「宇宙ビジネス」の活況は、ゴールドラッシュ以上? 宇宙ビジネスは生活をどう変える?
公開日:2018/8/6
グーグル、アマゾン、フェイスブック…。近年のIT革命で急成長を遂げた、名だたる大企業が今こぞって狙っている分野が、宇宙なのだという。しかし今繰り広げられている“宇宙ビジネス”は、私たちがイメージするような遥か遠くの星の研究のようにロマンチックな学術研究とはだいぶ違うものであるようだ。
今後ますます熱を帯びると予想される宇宙ビジネスについて、清水建設宇宙開発室、JAXAを経て宇宙ビジネスコンサルタントとして第一線で活躍する著者が解説する書籍、『宇宙ビジネスの衝撃 21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ』(大貫美鈴/ダイヤモンド社)では、すでに始まっている宇宙のゴールドラッシュの現状が明かされている。その内容を少しではあるが以下にご紹介したい。
■宇宙を舞台に加熱する、21世紀の「ゴールドラッシュ」
アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスは、ロケットを開発する会社ブルーオリジンを設立している。将来、宇宙に100万人の経済圏ができるという想定のもと、有人宇宙飛行を見据えて安価で安全なロケットが必要になると考え、宇宙旅行ができるサブオービタル(準軌道)機や大型ロケットの開発に取り組んでいるのだという。ブルーオリジンにはアマゾンから年間1000億円の投資が行われることが発表されており、これは日本の宇宙開発予算の実に3分の1に相当する規模だというから驚きだ。
ジェフ・ベゾスの宇宙へのビジョンは「100万人が宇宙に住んで働く」ことで、地球経済圏をさらに大きくし、宇宙経済圏に拡大していきたいというものです。人類が宇宙に行くことが、ゲームチェンジングをもたらすという信念を持っています。(本書30頁)
アマゾンだけでなく、グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、アップルを加えたIT企業のBIG5と言われる巨大企業、さらにシリコンバレーの企業やベンチャーキャピタルも宇宙ビジネスに躍起になり、多くの名だたる投資家たちが将来を見込んでそれらのビジネスに巨額な投資を行っているのだという。本書はこの状況を、19世紀アメリカの西部開拓や「ゴールドラッシュ」と重ね合わせて解説している。
■宇宙はインターネットの延長――ほしいものは「地球のビッグデータ」
IT関連の技術や資金が宇宙ビジネスに流れているのは、彼らが宇宙をインターネットの延長として見ているからだと著者は指摘する。宇宙にネットワークを張り巡らせることで「地球のビッグデータ」が手に入るというメリットが、さまざまなビジネスを生み出す原動力となっているようだ。
あるショッピングモールの駐車場に停まっている車の数を、時系列で分析することができる。植えられた作物の生育状況を宇宙から把握することができる。牧畜では、牧羊犬に代わって牛を管理することができる。魚群探知機の精度を高めていくことができる……。(本書3頁)
人工衛星などから得られるこうした情報は、リアルタイムで商品相場にも影響を与え、投資銀行やヘッジファンドなどの金融機関にとっても望まれているものだという。さらに著者は、宇宙から地球を観察することで手に入るビッグデータや通信環境は、今後、IoTやAIの進化と結びつくことで、製造、サービス、流通、医療、金融、娯楽、教育、農業、漁業、防災のあり方を激変させ、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めていると語り、本書にはその詳細の予測も収められている。
子供の頃に宇宙に憧れを抱いていた人は多いだろう。私自身も例外ではない。天文学者になりたいと夢見ていた少年時代、宇宙と人間との関わりはもっと漠然としていて、夢物語のような匂いに包まれていた。しかし本書で語られる現在進行中のビジネスという視点に立った宇宙像は、生活に密着しているが斬新で、言葉を選ばずに表すならば、「生々しい」と感じた。
21世紀のゴールドラッシュの深層部に迫る本書を読んでいくと、私たちは今まさに激動の時代を生きているのだと痛感させられる。一般市民という個人単位でも、今後宇宙ビジネスに端を発する変化の渦に巻き込まれることになるのは必至だといえそうだ。
文=K(稲)