“週休3日制”って実際どうなの? 導入したヤフーのウラ側から見えてくるもの
公開日:2018/8/7
週休3日制。なんと魅惑的な響きなのだろうか。7日ある1週間のうち、4日はきっちり働き、3日はゆっくり休む。毎日残業続きで疲れているサラリーマンであれば、「そんな会社があるのなら、ぜひ入りたい!」と飛びつきたくなるだろう。週休3日制は、すでに国内でもいくつかの企業で実施され始めている。インターネット業界の老舗・ヤフーもそのひとつで、育児や介護などをしている社員を対象に週休3日制を選択できるようにしており、今後は全社員への拡大を目指している。本書『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(本間浩輔/光文社)は、そんなヤフーにおいて、人事のトップとして著者が取り組んできた「企業として勝つため」「社員が幸せになるため」の最先端の働き方改革について論じている。週休3日制の先には、どんな未来が待っているのだろうか?
■週休3日制の本質は、成果主義への移行
ヤフーの週休3日制は、一見「社員が幸せになるため」のやさしい制度に見えるが、実はそれだけではない。著者によれば、この制度の裏側には、“成果主義の徹底”というコンセプトがあるのだという。多くの企業でこれまで会社員の給料は、拘束時間の対価として支払われてきたが、ヤフーはそれを成果の対価へと変えようとしている。つまり、社員は時間や場所にとらわれずに働ける代わりに、実際に出した成果で評価されるようになるのだ。そして、週休3日制は、その自由な働き方の選択肢の1つというわけである。
これは、社員の選択肢としてだけでなく、ヤフーが「企業として勝つため」の戦略でもあるのだ。ヤフーの採用で大きな割合を占めるITエンジニアの世界は、個人の能力によって成果に大きな差が生まれやすい。そのため、優秀なエンジニアに対して、自由な働き方と成果に見合った報酬を用意することで、競合他社ではなくヤフーを選んでもらうことを狙っている。だが、こうした成果主義は、社内の“できる人”と“できない人”の給与の格差を広げるものでもあるから、ヤフーは“できない人”にとっては厳しい会社になるかもしれない。「昼間ダラダラ働いて、わざと残業代を稼いでから帰る」なんてことはできなくなりそうだ。
■日本は所得格差時代になる
本書では、ヤフーの取り組みを具体的に紹介した後、終章で私たちの30年後の働き方を予見している。著者の見立てによれば、今後は日本全体で成果主義の流れが進み、人々は個人契約に近い形で企業に属するようになるという。そうなると、ヤフーの働き方改革と同じように、能力の高い人と低い人の間の所得格差は今以上に広がっていく。私たちは、こうした“所得格差時代”をどう生き抜けばいいのだろうか。
著者はこれに対して、状況に応じて必要なことを学んでいく“瞬発力”が必要になると語る。瞬発力とは、先の見えない将来に備えるのではなく、“今、必要なもの”を全力で学ぶスキルだ。例えば、部下のコーチング技術が必要だと感じたら、関連書籍を徹底的に読み込み、持てる人脈を駆使して詳しい人に話を聞きに行こうという姿勢。新しい時代に順応していくためには、こうした学びを怠らないことが必要だという。
ヤフーは、週休3日制(「えらべる勤務制度」)以外にも、月5回まで在宅勤務ができる「どこでもオフィス」や、上司と部下が毎週30分対話する「1 on 1ミーティング」など、先進的な人事制度を次々と取り入れており、日本の働き方改革の急先鋒だといえるだろう。その改革の裏にある哲学を知ることで、日本の働き方がこれからどう変化していくのかが見えてくる。あなたが経営層や人事ではなくとも、本書は自分の働き方を見直すヒントになるはずだ。
文=中川 凌