「パワハラ」と「教育的指導」の境界線は? 会社のルールのグレーゾーンを一刀両断
公開日:2018/8/8
ここ数年で会社員の働き方も会社の働かせ方も大きく変わってきた。残業時間やハラスメントに対する管理の目は厳しくなり、啓蒙ポスターもよく見かけるようになった。ブラック企業や過重労働、ワークライフバランスなど、働き方に関する話題に関心が集まっている流れの一環だろう。政府も「働き方改革」の名のもとに、さまざまな取り組みを行っている。
しかし、働き方には多くのグレーゾーンが存在する。実際のところ、何がよくて何がだめなのか、人事や労務関係の部署でもない限り、正確に知る人は少ないのではないだろうか。基準は法律で決められているが、具体的にどうあるべきか判断するのは難しいだろう。本稿で紹介する『会社のやってはいけない!』(内海正人/クロスメディア・パブリッシング)は、さまざまなケーススタディから「これはアウト!」「これはセーフ!」というポイントを具体的に解説する。本来、会社の管理がしっかりしていれば問題ないのだろうが、問題を被るのは私たち一般社員なのだから、しくみを知っておくことは自分の身を守る大事な術になるだろう。いくつかケースをみていきたい。
■「パワハラ」と「教育的指導」の境界線は?
パワーハラスメントと教育的指導の違いは、どこにあるのだろう。パワハラとは、民法の「不法行為」にあたり、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害する」ことをいうそうだ。実際にこの定義に関連する裁判があった。
【ケースA】
〇女性マネージャーが、上司から他社員の前で違法行為の有無を問いただされ、マネージャー失格であるかのような言葉で叱責を受けた。
〇これが原因で、女性マネージャーはうつ病となり退職した。
〇女性はこの行為を違法だとし、裁判所に会社を訴えた。
この結果、会社が敗訴したのだが、この裁判でポイントとなるのは「うつ病と問題行為との因果関係」だ。裁判では、「部下の面前での叱責」は「配慮に欠ける」と判断されている。
現場で部下を叱ることは避けられない。上司の考え方、部下の受け止め方によっては、双方共にその叱責を「指導」ととらえるかもしれない。しかし、前述した事例のような条件だと、話は大きく変わってくる。パワハラが裁判にまで発展するケースは多くないそうだが、裁判となれば、こういった要件は重要な論点になるだろう。
■就業時のネット利用はどこまでOK?
会社のパソコンを私的利用すると、どうなるか。ここでの法的な問題点は「メールなどの私的な使用がそもそも許されているのか」ということだ。なぜなら、「社員の職務に専念する義務」に違反する可能性があるからだ。この参考となる判例は次のとおりだ。
【ケースB】
〇ある社員が多量の私用メールを送信している事実が発覚し、懲戒処分となった。
〇これに対して社員は、会社をプライバシーの侵害、名誉毀損で訴えた。
裁判所の判決は「私用メールは一般的に懲戒処分の対象となる」となった。だが、この判例と逆のケースも存在する。
【ケースC】
〇社員が就業時間中に私用メールを送り、これを主な理由として解雇された。
〇社員は「解雇は無効」とし、裁判を起こした。
この判決は、「就業規則で私用メールが禁じられていなかった」「私的メールは1日2通程度だった」ため、「職務に専念する義務に違反しない」とした。会社は、私的メールを制限したいのであれば「就業規則」に「私用メールは懲戒処分の対象」などと明記しておく必要があるだろう。何らかの問題が起きた時には「就業規則」が前提となるからだ。
過度な残業やセクハラ、社員同士のトラブル、給与、就業規則、健康管理、懲戒処分、解雇…などなど、他にもさまざまな会社でのトラブルの事例が取り上げられている。本書は本来人事、労務に携わる人向けに書かれた本であるが、管理されている社会人が正しい知識を身につけておくのは、自身の身を守るために決して損にはならない。もし、会社に不当な扱いを受けたり、会社に対する疑問を抱いていたりする場合には、本書はすぐ役立つかもしれない。
文=高橋輝実