鈴木亮平、松田翔太、小栗旬……紋付き袴のカッコよさはチラリズムと◯◯!?

エンタメ

公開日:2018/8/10

『家紋無双』(発行:知楽社、発売:主婦の友社)

 NHK大河ドラマ『西郷どん』を見て、気づいたことがある。

 あれ、紋付き袴ってカッコいい……。

 鈴木亮平演じる西郷隆盛、松田翔太演じる一橋慶喜、小栗旬演じる坂本龍馬など、もちろん彼らが元々カッコいいのは当然ではあるが、やはり「紋付き袴」姿は一味違う。

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 背中や左右の袖、胸元からチラリと見える家紋に、さりげないけれども他人とは違う自分の確固たる象徴として、個性を引き出す役割を与えているようにも思える。

 そこで家紋について素人でもわかる本はないかと探したところ、大変興味深い一冊を見つけた。帯にデカデカと「家紋には理由がある!」と書かれた『家紋無双』(発行:知楽社、発売:主婦の友社)だ。

 まず本書の一番の特徴は何といっても、家紋を擬人化している点にある。いろんなところから怒られるのではないかと、要らぬ心配もしてしまうが、この擬人化が家紋初心者にとっては、とっつきやすくて、ありがたい。

 さっそく鈴木亮平演じる西郷隆盛の紋を調べたところ、「鷹の羽紋」の一種の「違い鷹の羽」に丸が付いた紋であることがわかった。「丸に違い鷹の羽」というのかな。
 家紋の由来は、「獲物を狩る勇猛な姿に戦での勝利を見出す」というもので、武家での使用が多く、武家政権が多くあった東京や九州で多くみられるそうだ。

 ほほう。これちょっと面白いではないか。

 次に松田翔太演じる一橋慶喜の紋を調べたところ、これはやはり「葵紋」。ザ・徳川家ではあるが、実は江戸時代以前は、徳川家の家紋というよりも、京都の神社の紋として有名だったらしい。しかし徳川家が天下を獲った後、「葵紋禁止の法令」が発せられ、徳川将軍家と徳川御三家以外での使用が禁止になったとのこと。

 まさか法律で葵紋を使用することを禁止したとは、さすが徳川。

 続いて小栗旬演じる坂本龍馬。これは「桔梗紋」の一種で「組合角に桔梗紋」。桔梗紋全体の話になるが、均整の取れた美しい造形で最も美しい家紋と呼ばれているとのこと。さらに桔梗には「吉・更」の二字が入るから縁起もいいとか。

 美しいだけでなく、縁起もいいとか完璧すぎる……。

 まずは気になる御三方について調べてみたが、続いてわが家の「澤瀉紋(おもだかもん)」も調査。
 澤瀉は別名「勝戦草(かちいくさぐさ)」と呼ばれ、その名ゆえに武家に愛されたとのこと。
 ふむ。これは不思議な感覚。
 自分の知らない自分を知ったような気持ちであり、自分の家が自分の家たる由縁を知ったような、祖先のルーツをたどる旅に出たような気持ち。

 そうか、ご先祖様は戦に勝ちたかったんだな。わかるよ、その気持ち。今度の墓参りの際にしっかり磨くから、ちょっと待っててね。

「家紋の理由」を知ると、紋付き袴がカッコいいのは、やはり「家紋が他人とは違う自分の確固たる象徴」という考えで概ね間違っていないように思える。
 家紋に秘められた思いがチラリズムで見えるカッコよさ。それが紋付き袴の魅力。

 くそう、江戸時代の武家に生まれ変わりたい!!

 さて、私の感想ばかりでは申し訳ないので、もう少し本書についても紹介するとしよう。

 おそらく未読の方は「また擬人化かよ」と思うかもしれないが、そうじゃない。擬人化とは古来より日本に伝わる由緒正しき技法の一種なのである。
 そもそも家紋は平安時代に貴族の目印、いわば「アイコン」として生まれたもので、そのアイコンの中には、子孫繁栄や武運長久を願う思いが秘められているという。

 しかし、現代においては、家紋を知る人がどんどん減ってきており、実に79%の人が自分の家紋を知らないという調査結果も出ている。
 このままでは「家紋」が消失してしまうという危機に起ち上がったのが、本書の著者・家紋研究家の森本勇矢さんだ。

 家紋を知らない人にも家紋を伝えるために、本書では「鳥獣戯画」や「百鬼夜行図絵」などでも用いられた、物事をわかりやすく伝えるための技法として擬人化を採用したとのこと。

 そのため今回掲載されている82種の家紋キャラクターについては、コンセプトからすべて森本さんが携わっており、イラストの細部まで散りばめられたこだわりがみてとれる。
 言い換えれば、これを担当した絵師たちの苦労が凝縮していると、僭越ながら言わせていただきたい。

 また中身については、家紋となった元の対象の説明や由来はもちろんのこと、代表的な紋だけでなく、派生紋を含めてなんと902種の家紋を掲載している。他にも都道府県別家紋分布図が全家紋にあり、使用ランキング、使用諸家などの各種最新データも多数掲載。それだけでなく、家紋の探し方や歴史、海外との比較などのコラムも充実しているのがうれしい。

 むしろこんな真面目な内容に、擬人化を付け加えるとか、いい意味で「馬鹿野郎」な一冊だな、これ。

 と、いろいろ書きなぐってきたが、私からお伝えしたいことは2つ!

(1)推し&自分の家紋の由来を調べるのにちょうどいい!
(2)素晴らしき無駄(雑学)の宝庫!

 発売2週間で重版もかかったそうなので、ぜひ読んでみてほしい。