あなたの会社は死んでいないか? 生きている会社を見分ける大原則
公開日:2018/8/10
「売り手市場」などと呼ばれる就職事情。就活や転職と言えば、企業研究は欠かせない。もし筆者がその最前線にいた頃に、こんな本があればぜひ、読んで臨みたかったなと感じた1冊をご紹介したい。
外資系大手コンサル会社、ローランド・ベルガー日本法人会長、遠藤功氏の著書『生きている会社、死んでいる会社 「創造的新陳代謝」を生み出す10の基本原則』(東洋経済新報社)である。
経営コンサルタント歴30年の集大成だという本書は、遠藤氏のこれまでの組織研究のエッセンスがコンパクトにまとめられた1冊だ。冒頭で、今の日本には「死んでいる会社があまりにも多い」と、遠藤氏は嘆く。会社を「数字だけで『いい』『悪い』と安易に判断してはいけない。最も大事なのはその会社が『生きている会社』か『死んでいる会社』かである」とも記している。
では、「生きている会社」とはいったいどういう会社で、会社を生かすには何が必要なのか? 本書は、企業での実例などをあげながら、具体的かつ詳細に教えてくれる。
■「生きている会社」の重要な要素は「創造的新陳代謝」
「生きている会社」とは「絶え間なく挑戦、実践、創造、代謝する会社」であり、中でも重要な要素は「創造的新陳代謝」だと著者は説く。
解説をごく簡潔に要約すると、会社も人体同様に生きものであり、日々老化してしまう。一方で、会社には「絶え間なく創造し続けること」が必要なので、「事業」「業務」「組織」「人」の4つの器官において、常に新陳代謝を図らなければいけない。
そのために何をすればいいのだろう。ここでは著者が「深く、重い」として取り上げているアマゾン創業者のジェフ・ベゾスの言葉を紹介したい。それは、「大組織の内部にいかに“創業1日目”の活力を保つか」というもの。おそらく、ベゾスにとって“2日目”の会社はすでに「死んでいる会社」なのだろう。めまぐるしく状況が動くグローバルビジネスで世界のトップに立つには、いかに早いサイクルでの新陳代謝が必要かを教えてくれるフレーズである。
さて、創造的新陳代謝は、「生きている会社」の最低必要条件に過ぎない。本書はさらに、必要な条件として「熱を帯びている」「理を探求している」「情に充ちあふれている」ことをあげ、各条件が何を意味するのかを具体的に解説している。
■働き方改革のなかで、働くすべての人が応用できる知恵の書
本書の最後では実践編として、「生きている会社」にするための処方箋となる「10の基本原則」を提示している。その原則には、「自由に何でも言える会社になる」「みんなでよい空気をつくる」「人をコストではなくバリューと捉える」など、多くの企業が近年では理念に掲げているトピックも含まれている。しかし、理念に掲げることと実践できているかは別物だ。本書に登場する多くの成功事例は、その実践法を軌道修正するための良い参考材料になるだろう。
さて、ここまで書けばおわかりだろうが、本書のメインターゲットは企業経営者であり、「日本の企業を生きた会社にすることが本書の目的」だと著者は記している。しかし、書かれている言葉は平易で、経営経験はなくても組織で働いたことがある人ならば、すらすらと頭に入ってくるテーマだ。内容の大半は、自分の仕事の進め方や、部署内でのリーダーシップの発揮の仕方などにすぐ応用できるノウハウである。働き方が変わりつつある今、その知恵を学び、自分の周囲で生かさない手はないだろう。
本書には、いま勢いのある「生きている会社」が有名無名問わず多数登場する。これから就職や転職を考えている人にとって絶好の企業研究本にもなるし、会社訪問の際に、自分の目で会社の生死を見分ける指針にするといった活用法もある。あるべき会社の姿だけでなく、そもそも会社とは何か、という原点に立ちかえることができる、おすすめの1冊だ。
文=町田光