夫や交際相手が次々と不審死! 高齢者を籠絡する「後妻業」の女・筧千佐子に迫る
公開日:2018/8/19
財産目当てで結婚相談所に入会し、高齢男性を次々と毒牙にかけた筧千佐子。周辺への丹念な取材と、獄中インタビューにより事件の真相に迫った1冊が『全告白 後妻業の女 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小野一光/小学館)である。著者の小野一光氏は事件取材の大ベテラン。拘置所で面会を重ねることに成功した。
この事件は、2013年12月に死亡した筧勇夫さん(75歳)から、青酸化合物が検出されたことで、妻の千佐子を調べたことから始まる。最初の夫を病気で亡くした1994年(千佐子47歳)以降、結婚や交際をした高齢男性が相次いで死亡、土地建物や遺産など8億から10億の資産を手にしていたことが判明したのだ。財産目的の連続殺人事件として捜査が進み、青酸化合物が検出された2人と青酸中毒死と判断された2人、計4人について逮捕・起訴されており、2017年に死刑判決を受けている。
何人もの高齢男性が籠絡され、公的な権利が成立してから短期間で死亡したこの事件、黒川博行氏の小説『後妻業』が千佐子の所業を言い表すものだったことから「後妻業」という言葉がメディアに踊った。
登録していた結婚相談所の所長は、千佐子について「色が白く、会話のテンポがいい。男としては何らかの魅力を感じる」と語り、実際、千佐子の毒牙にかかる前に別れた男性の中には千佐子に好印象を持っている者も少なくないという。本書の表紙には、お見合い写真だろうか、襟元に大きなフリルのついた白い半袖ワンピースを着た千佐子が微笑んでいる。
驚くことに千佐子は、相手に公的書類を作成させた翌月にはお見合い、交際を始めている。生活必需品をストックするかのように、次の「獲物」を用意する千佐子。千佐子にとって「殺人」のハードルは、異様なまでに低い。
裁判官とのやりとりも読みどころだ。毒入りカプセルの作り方について聞かれると、「おまんじゅうやケーキやったら、このときはああでこうでとなりますけど、そんな心の余裕ないですよ。あったら教えて」などと饒舌で気軽な口調で返すのだ。
「女を強調して秋波を送ったのは疑いようのない事実」「寂しい高齢の男性なら籠絡されるかもしれないと思った」と著者は述べる。千佐子が著者に送った手紙は、「一光先生にだったらしかられたいで~す」「とらわれの身でなかったら飛んで行きますのにネェ…。シューン」という調子だ。
千佐子には殺人者としての罪の意識が見られないと述べる著者は、「千佐子は被害者に対していまだに思っているに違いない。これまで老い先短いあなたたちに、私は良くしてきたじゃない。だから当然の対価を貰っただけ」。本書は、「後妻業」事件の真相とともに、高齢者の貧困問題や超高齢化社会という現実をも浮き彫りにした衝撃の1冊である。
文=泉ゆりこ