夏目漱石『草枕』あらすじ紹介。漱石の考える芸術と人生とは

文芸・カルチャー

更新日:2023/7/12

『草枕・二百十日(角川文庫)』(夏目漱石/KADOKAWA)

 画家は山道を歩きながら、こう考えた。「智(ち)に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角(とかく)に人の世は住みにくい」。

 日露戦争の時代。30歳の洋画家は山に向かい、温泉宿に宿泊する。そこで那美という美しい女性と知り合う。元夫の勤め先が倒産し、実家の宿に戻ってきたという彼女は謎めいて見える反面、「今まで見た女のうちで最も美しい所作をする女」であると彼は感じる。彼は那美から自分の画を描いてほしいと頼まれるが、彼女には足りないところがあると思い、描かなかった。

 ある日彼が草原で漢詩を作っていたところへ、野武士のようなひげ面の男と那美が現れる。男は那美の元夫で、貧乏であるため日本では暮らせなくなり、満州に行くための金を貰いに来たのだという。

 満州へと徴集された那美の従兄弟を見送るためにふたりが駅に行くと、汽車の中には那美の元夫もいた。那美と元夫は、発車する汽車の窓越しに顔を合わせ、彼女は茫然とした表情を見せた。那美の表情の中に「憐れ」を彼は感じ取り、「それだ、それが出れば画になりますよ」と言う。足りなかったものを得たことにより、彼の胸の中では那美の画が出来上がった。

文=K(稲)