『ドラゴンボール』『CITY HUNTER』… “進化系”スピンオフが見せる、名作マンガのあのエピソードの裏側にこんなドラマが!

マンガ

更新日:2018/8/27

 既存コンテンツの世界観やキャラクターを活かしたスピンオフ(派生)作品。マンガ界で初めてスピンオフ作品が描かれたのは『フクちゃん』(1936~1971年に連載。『江戸ッ子健ちゃん』から誕生)と言われているが、多様化が一気に進んだのはここ数年ではないだろうか。原作者とは違うマンガ家が作画を手掛けるスタイルで、コメディやグルメなど、原作とのギャップを楽しめる自由な作品が続々と登場している。

 中でも注目したいのは、原作の世界観のみならず、ストーリーにまでガッツリと踏み込んでいるスピンオフ。パラレルワールドや別視点を上手く活用して、原作ファンなら誰もが知っているおなじみのエピソードを、新たな切り口で描いている点が特徴だ。ここでは、そんな“進化系”スピンオフに果敢にチャレンジして話題を集めた3作品を紹介したい。

■Z戦士最弱の男は地球人ナンバーワンになれるのか

『ドラゴンボール外伝 転生したらヤムチャだった件』(ドラゴン画廊・リー、原作:鳥山明/集英社)

 この手の話題でまず欠かせないスピンオフと言えば、「少年ジャンプ+」(集英社)の『ドラゴンボール外伝 転生したらヤムチャだった件』(ドラゴン画廊・リー、原作:鳥山明)だろう。現在はすでに連載を終了して前・中・後編をまとめた単行本が発売している。

advertisement

 原作はご存じ、国民的人気コミック『DRAGON BALL』。ヤムチャと言えば、孫悟空の初めてのライバルとして登場したイケメンキャラクターだ。物語が進むにしたがい周囲のパワーインフレについていけず、サイヤ人編ではサイバイマンの自爆攻撃にやられて犠牲者第1号になってしまう。ネットでは「ヤムチャしやがって…」などでもおなじみで、しばしば“かませ犬”の例に挙げられてしまう気の毒な存在でもある。

 本作はそんなヤムチャに“転生”してしまった現代の男子高校生が、持ち前のマンガ知識をフル活用してサバイバルしていく物語だ。転生直後こそ悟空たちとのやり取りに感動していたが、ふと自分(ヤムチャ)に降りかかる運命を思い出してしまう。そう、このまま行くと近い将来、サイバイマンと戦って死んでしまうのだ。ブルマとイチャイチャしたい気持ちをグッとこらえ、もっと強くならなくてはいけない。そこで彼がとった対策とは果たして……。

『DRAGON BALL』読者なら、きっと一度は考えたはずのifストーリー。サイバイマンやナッパ、ベジータといった敵を相手に、ヤムチャがどんな活躍ぶりを見せるのか。その目で確かめてほしい。

■獠や香とひとつ屋根の下で共同生活。これぞ異世界転生の醍醐味!

『今日からCITY HUNTER』(錦ソクラ/徳間書店)

『月刊コミックゼノン』で連載中の『今日からCITY HUNTER』(錦ソクラ)は、『ドラゴンボール外伝 転生したらヤムチャだった件』と同じ“異世界転生”というアイデアから生まれた作品だ。

 現代のOL・青山香が人気コミック『CITY HUNTER』の世界に転生してしまい、冴羽獠や香たちと新しい人生をスタート。おなじみの冴羽商事のマンションに居候しながら、獠のもっこりや香のハンマーなどのやり取りを間近で見られるという、ファンにとっては夢のような転生ライフが描かれている。さらに海坊主と美樹のロマンス(?)といった、原作に登場する具体的なエピソードをじっくりと追いかけていて、作品を追体験できる内容だ。

 大まかな構成はヤムチャのケースと同じだが、違う点があるとしたらエピソードへの介入度だろうか。ヤムチャ自身に転生してしまい、自分の運命を変えるため積極的に物語を書き換えていく前者に対して、『今日からCITY HUNTER』は40歳から女子高生に若返ったとはいえ本人がそのまま転生したため、自分が関わることで獠たちの運命が変わってしまうことを恐れる描写も見られている。

 原作の流れからどう分岐して、オリジナルのストーリーが描かれているのか、原作と読み比べながら楽しむのもオススメだ。

■金田一少年にトリックを次々と暴かれる犯人たちのレ・ミゼラブル

『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』(船津紳平/講談社)

 最後に取り上げるのは、原作を違う視点から描くことで、新たな楽しみ方を生み出した好例だ。『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』(船津紳平/講談社)は、タイトルのとおり『金田一少年の事件簿』で登場した犯人たちを主人公に、彼らの犯行状況を追いかけていくコメディである。

 原作の『金田一少年の事件簿』は、名探偵の金田一耕助を祖父に持つ金田一一(はじめ)が数々の難事件を解き明かしていくミステリー。「ジッチャンの名にかけて!」の決めゼリフも有名だろう。毎回、犯人たちが多彩なトリックを使って金田一少年に挑戦状をたたきつけるわけだが、そのトリックが何かと奇想天外。読者の間でもたびたび話題になってきた。『~犯人たちの事件簿』は、そんな無茶なトリックを犯人が実演する、いわば倒叙ミステリーの体裁をとることで、セルフツッコミに近い笑いを生み出している。

 悪戦苦闘しながらも無茶な犯行を次々と成功させて、「我ながらよく頑張った!」と自分自身をほめたたえる犯人たち……。しかし無情なもので、そんな決死のトリックを金田一少年は神がかり的な推理力であっさりと見破ってしまう。

 各事件のラストには、決まって犯人たちに「何が敗因か?」と聞くコーナーがあるが、「名探偵の孫だからと侮ってはいけない」「金田一少年を先に殺せばいい」など、身もふたもない意見が飛び交うあたりに、金田一少年のチートぶりがうかがい知れるかもしれない。

 原作のエピソードをしっかりと踏まえることで、ファンの満足度を担保して、原作をもう一度読み直すきっかけも与えてくれる。こうしたスタイルはスピンオフマンガとして理想的なカタチかもしれない。

 その分、原作の絵や世界観を高いクオリティで再現する必要があるため、作家にはテクニック的に非常に高いハードルが求められる。でも、そこから生まれた作品は、原作ファンをも唸らせる魅力と作品愛に溢れているのも事実だ。進化を続けるスピンオフマンガの1つのモデルケースとして、今後も楽しみながら動向を見守っていきたい。

文=小松良介